子どもの視点から少年法を考える情報センター

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第3場 その4

    坂本、仁、子どもらの部屋に向かって歩きながら、話す。
    真木、杉野、椅子をもって退場。
    英大、朋則、さやか、真理、三々五々に登場。
    坂本と仁の話に、だんだん、参加する。


坂本  仁君、おとうさんに今までに、ああいうこと言ったことがあるの。

   まさか。まともに口聞いたこともないよ。

坂本  言ってみて、どうだつた。

   もう、関係ないよ。

坂本  比べられるの、嫌だった?

   嫌だった。

坂本  あなたなのにね。大人はどうして、比べたがるんだろうね。

   やつぱ、頭がいいほうが、人間ランク上だもんね。僕なんか、ランク下の人間だかんね。

坂本  人間にランクなんてあると思ってるの。私は、その意見には、反対だわ。だいたい、頭がいいって、どういうことなのかな。

仁   そりやあ、学校の成績がいいってことだよ。

坂本  そうかな。私は、頭がいいっていうのは、人の気持がよくわかるとか、状況判断が的確だとか、先の見通しがきくっていう意味で使っているけどな。学校の成績がよくたって、他人を踏みにじったり、権力を利用して悪いことをしたり、その場のことしか考えられないような人は、頭がいいとはいわないし、ランクが上だなんて、いえないんじやない。

   そうかなあ。小さいときから、ずっとそう思ってきたからな。

朋則  坂本さんのいうとおりなら、俺なんか、超頭いいってことになるぜ。

坂本  うん、そうだよね。でも、頭がいいとか、悪いとか、そんなことで、自分のランクを決め付けるのは、やめてほしい。それよりか、誰もが、みんな、自分でいいんだ、生きてていいんだって、自信をもってほしいな。

さやか それは、ちよっと無理だと思う。

坂本  どうして。

さやか 私は、自信なんか全然ない。

坂本  なぜ。

さやか だって、何のとりえもないのよ。過食して、吐いて、また食べて。馬鹿なことと思ったって、やめられない。容姿も悪いし、才能もないし。親を悲しませてばかりだし。

坂本  そんなことないよ。私、さやかちゃんの笑顔、素敵だと思うもの。

さやか えっ、そんな。

朋則  うん、それは俺もそう思うぜ。

坂本  おう、朋則、いうじやん。(笑い)

坂本  さやかちやんは、親を悲しませているなんて、どうして考えるの。

さやか おとうさんと、おかあさんは、私がビアニストになることを願っていたの。私、結構、期待されてた。中学から音楽学校の付属にいったし、先生にも恵まれていたし。でもだめになったの。弾けなくなくなった。

坂本  そうだったの。

さやか 私から、ピアノをとったら、何にもなかった。からっぽ。親は、がっかりしてるの。私が、練習もしないで、食べ吐きばかりして、万引までして。もう、とっても悲しんでるの。

坂本  そうだつたの。それで、自信がないっていうのね。

さやか うん。

朋則  でもさ、さやかは、俺には、結構きついこといったじやん。正直あれは、
きいたぜ。

さやか あのときは、よく言えたもんだわ。朋則君、すごいこわかったのに。

坂本  今は、こわくないみたいね。そう、仁君、さっきは、おとうさんによく言ったよね。お父さん、きっと、とってもこたえたと思うよ。

   ここへ来て、親と離れて暮らせるってわかったし、あんとき、園長先生や、坂本さんたちが、なんとなく親を非難している感じがしたんだよな。我ながらよく、いったよ。

英太  いえるだけ、いいよな。俺なんか、絶対、いえない。

   親父、こわい?

英太  むっちやこわい。

朋則  ぶんなぐられんのか。

英太  三歳のときからだよ。馬乗りになられて、ぶん殴られてきた。どんなにこわいか、お前らにはわかんないよ。

さやか だって、もう大きくなったのに。お父さんより、強くなってるんじゃない。

英太  やられてこなかったやつには、わかんないんだね。小さいときから、なぐられて、とことん怖いと思ってきた子どもは、金縛り状態だよ。反抗なんて、とんでもないんだ。

坂本  どんな、理由で殴られてきたの。

英太  理由なんか、覚えていない。あいさつがわりに殴るんだよ。自分の気分がいらいらしていたら、子どもぶっ飛ばして、すっきりさせてんだろ。

坂本  サンドバック代わり?

英太  ああ、そんなもんだね。

朋則  ひでえなあ。

   もしかしたら、もしかしたらだよ。君,僕のこと、親父と勘違いしたんじやない。このまえ。

英太  えっ。

   僕、馬乗りになっただろ。でも殴ってはいなかったんだよ。それなのに、君はものすごい声出して,動かなくなった。

さやか そうだつた。そして、ナイフ出して、ぶっ殺してやるって。

朋則  ものすごい顔してたよな。俺がお前に近寄るのも、どうしようかと思うほどだったよ。

英太  そうだ。俺は、あのとぎ、仁が親父とだぶつてしまつたんだ。仁だということを、忘れてた。また、やられると思ったら、わけわかんなくなっちまって。気がついたら、ナイフ持ってた。

   そうだったのか。それで少し、なぞが解けたよ。

英太  ごめんな。俺、殴られすぎて、頭おかしくなってんだ、きっと。けんかすると、止まらなくなってしまうのも、そのせいかもしれない。また、やるかもしれない。俺、こんなまま、大人になっていくのいやだ。

坂本  大丈夫よ。英太君がそこに気がついたんだったら、きっと治療の方法わ。時間はかかるかもしれないけれど、あきらめないで。

朋則  親って、子どもぶんなっぐても、逮捕されないよね。

   ぶん殴っても、めちやめちや言っても、おとがめなし。

英太  それで、俺たちがやると、しかられるし、つかまるし。これって、おかしいよ。
    
    真理、この間の会話には加わらず、輪の外にいた。
    会話の途中から、気分がめいって、いらだっている様。
    


真理  (突然、立ちあがる)うるさいんだよ。いい加減にしてよ。

さやか 真理ちゃん、どうしたのよ。

真理  よくも、そうやって、ベらべらじやべれるね。人に話せるくらいの過去なんて、たいしたことないんだよ。

坂本  真理さん。

真理  そんな顔で見るなよ。同情なんかしてほしくないよ。

    真理、隣の部屋へ出て行き、部屋のすみで、うずくまる。
    坂本、他の子どもを制して、真埋のあとを追う。他の子どもたちは退場


坂本  (真理に近寄る)ごめんなさい。あなたを怒らせるつもりはなかったの。

真理  (無言で、体を硬くする。)

坂本  とっても辛いこと、抱えてきたのね。

真理  (答えない。)話したくなかったら、話さなくていいの。でも、ひとりっきりで抱えているあなたを見ていると、私の方が苦しくなるの。もしかして、その辛い過去のことで、自分を責めているようなことはないかな。それだけは、やめてね。子どものあなたが悪かったなんてことは、絶対ないんだから。

真理  (顔を覆って、泣き出す。)

坂本  (真理にさらに近寄る。)泣いていいのよ。(髪をなでる。)泣いていいのよ。気のすむまで、泣いていいのよ。そして腹を立てていいの。怒るの。悪かったのはあなたじやない。

暗転


  

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もがれた翼 パートY
〜子どもたちと弁護士が
作るお芝居
この物語はフィクションです。
でも本当に
フィクションでしょうか。

児童福祉施設に送られた
子どもたち
ある日、事件が起きて、、、、
家庭で受けていた
虐待の事実が明らかになる
親に愛された経験がない
この子らを
責められるだろうか
私は何のために生まれてきたの!
私は誰かに愛されるだけの
価値がないの!
誰か、私を愛して

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国立市市民芸術小ホールにて
上演 (4月22日)


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