|
|
<6ページ> 第3場 その4 坂本、仁、子どもらの部屋に向かって歩きながら、話す。 真木、杉野、椅子をもって退場。 英大、朋則、さやか、真理、三々五々に登場。 坂本と仁の話に、だんだん、参加する。 坂本 仁君、おとうさんに今までに、ああいうこと言ったことがあるの。 仁 まさか。まともに口聞いたこともないよ。 坂本 言ってみて、どうだつた。 仁 もう、関係ないよ。 坂本 比べられるの、嫌だった? 仁 嫌だった。 坂本 あなたなのにね。大人はどうして、比べたがるんだろうね。 仁 やつぱ、頭がいいほうが、人間ランク上だもんね。僕なんか、ランク下の人間だかんね。 坂本 人間にランクなんてあると思ってるの。私は、その意見には、反対だわ。だいたい、頭がいいって、どういうことなのかな。 仁 そりやあ、学校の成績がいいってことだよ。 坂本 そうかな。私は、頭がいいっていうのは、人の気持がよくわかるとか、状況判断が的確だとか、先の見通しがきくっていう意味で使っているけどな。学校の成績がよくたって、他人を踏みにじったり、権力を利用して悪いことをしたり、その場のことしか考えられないような人は、頭がいいとはいわないし、ランクが上だなんて、いえないんじやない。 仁 そうかなあ。小さいときから、ずっとそう思ってきたからな。 朋則 坂本さんのいうとおりなら、俺なんか、超頭いいってことになるぜ。 坂本 うん、そうだよね。でも、頭がいいとか、悪いとか、そんなことで、自分のランクを決め付けるのは、やめてほしい。それよりか、誰もが、みんな、自分でいいんだ、生きてていいんだって、自信をもってほしいな。 さやか それは、ちよっと無理だと思う。 坂本 どうして。 さやか 私は、自信なんか全然ない。 坂本 なぜ。 さやか だって、何のとりえもないのよ。過食して、吐いて、また食べて。馬鹿なことと思ったって、やめられない。容姿も悪いし、才能もないし。親を悲しませてばかりだし。 坂本 そんなことないよ。私、さやかちゃんの笑顔、素敵だと思うもの。 さやか えっ、そんな。 朋則 うん、それは俺もそう思うぜ。 坂本 おう、朋則、いうじやん。(笑い) 坂本 さやかちやんは、親を悲しませているなんて、どうして考えるの。 さやか おとうさんと、おかあさんは、私がビアニストになることを願っていたの。私、結構、期待されてた。中学から音楽学校の付属にいったし、先生にも恵まれていたし。でもだめになったの。弾けなくなくなった。 坂本 そうだったの。 さやか 私から、ピアノをとったら、何にもなかった。からっぽ。親は、がっかりしてるの。私が、練習もしないで、食べ吐きばかりして、万引までして。もう、とっても悲しんでるの。 坂本 そうだつたの。それで、自信がないっていうのね。 さやか うん。 朋則 でもさ、さやかは、俺には、結構きついこといったじやん。正直あれは、 きいたぜ。 さやか あのときは、よく言えたもんだわ。朋則君、すごいこわかったのに。 坂本 今は、こわくないみたいね。そう、仁君、さっきは、おとうさんによく言ったよね。お父さん、きっと、とってもこたえたと思うよ。 仁 ここへ来て、親と離れて暮らせるってわかったし、あんとき、園長先生や、坂本さんたちが、なんとなく親を非難している感じがしたんだよな。我ながらよく、いったよ。 英太 いえるだけ、いいよな。俺なんか、絶対、いえない。 仁 親父、こわい? 英太 むっちやこわい。 朋則 ぶんなぐられんのか。 英太 三歳のときからだよ。馬乗りになられて、ぶん殴られてきた。どんなにこわいか、お前らにはわかんないよ。 さやか だって、もう大きくなったのに。お父さんより、強くなってるんじゃない。 英太 やられてこなかったやつには、わかんないんだね。小さいときから、なぐられて、とことん怖いと思ってきた子どもは、金縛り状態だよ。反抗なんて、とんでもないんだ。 坂本 どんな、理由で殴られてきたの。 英太 理由なんか、覚えていない。あいさつがわりに殴るんだよ。自分の気分がいらいらしていたら、子どもぶっ飛ばして、すっきりさせてんだろ。 坂本 サンドバック代わり? 英太 ああ、そんなもんだね。 朋則 ひでえなあ。 仁 もしかしたら、もしかしたらだよ。君,僕のこと、親父と勘違いしたんじやない。このまえ。 英太 えっ。 仁 僕、馬乗りになっただろ。でも殴ってはいなかったんだよ。それなのに、君はものすごい声出して,動かなくなった。 さやか そうだつた。そして、ナイフ出して、ぶっ殺してやるって。 朋則 ものすごい顔してたよな。俺がお前に近寄るのも、どうしようかと思うほどだったよ。 英太 そうだ。俺は、あのとぎ、仁が親父とだぶつてしまつたんだ。仁だということを、忘れてた。また、やられると思ったら、わけわかんなくなっちまって。気がついたら、ナイフ持ってた。 仁 そうだったのか。それで少し、なぞが解けたよ。 英太 ごめんな。俺、殴られすぎて、頭おかしくなってんだ、きっと。けんかすると、止まらなくなってしまうのも、そのせいかもしれない。また、やるかもしれない。俺、こんなまま、大人になっていくのいやだ。 坂本 大丈夫よ。英太君がそこに気がついたんだったら、きっと治療の方法わ。時間はかかるかもしれないけれど、あきらめないで。 朋則 親って、子どもぶんなっぐても、逮捕されないよね。 仁 ぶん殴っても、めちやめちや言っても、おとがめなし。 英太 それで、俺たちがやると、しかられるし、つかまるし。これって、おかしいよ。 真理、この間の会話には加わらず、輪の外にいた。 会話の途中から、気分がめいって、いらだっている様。 真理 (突然、立ちあがる)うるさいんだよ。いい加減にしてよ。 さやか 真理ちゃん、どうしたのよ。 真理 よくも、そうやって、ベらべらじやべれるね。人に話せるくらいの過去なんて、たいしたことないんだよ。 坂本 真理さん。 真理 そんな顔で見るなよ。同情なんかしてほしくないよ。 真理、隣の部屋へ出て行き、部屋のすみで、うずくまる。 坂本、他の子どもを制して、真埋のあとを追う。他の子どもたちは退場。 坂本 (真理に近寄る)ごめんなさい。あなたを怒らせるつもりはなかったの。 真理 (無言で、体を硬くする。) 坂本 とっても辛いこと、抱えてきたのね。 真理 (答えない。)話したくなかったら、話さなくていいの。でも、ひとりっきりで抱えているあなたを見ていると、私の方が苦しくなるの。もしかして、その辛い過去のことで、自分を責めているようなことはないかな。それだけは、やめてね。子どものあなたが悪かったなんてことは、絶対ないんだから。 真理 (顔を覆って、泣き出す。) 坂本 (真理にさらに近寄る。)泣いていいのよ。(髪をなでる。)泣いていいのよ。気のすむまで、泣いていいのよ。そして腹を立てていいの。怒るの。悪かったのはあなたじやない。 暗転 |
<トップページにもどる>
国立市市民芸術小ホールにて |
|
その他スケジュールやご不明な点は請願署名をすすめる会まで お問い合わせ下さい。 東日本事務局 TEL.03-5770-6164 FAX03-5770-6165 Eメールsiten@bh.mbn.or.jp |