子どもの視点から少年法を考える情報センター

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第3場 その3

    
仁の父水越が、立腹した様子で入ってくる。

水越  失礼しますよ。玄関が開いていたので、入らせてもらいました。

真木  あっ、仁君のおとうさん。

園長  どうぞ、おかけください。先日は、お電話で失礼しました。

水越  (腰をおろしながら)まったく、どういうことですか。園内で刃物を振り回す子どもがいるなんて。怪我をしなかったから、いいようなものの、いったい、何を考えているんだか。

真木  いや、僕たちも本当に驚いているんです。普段は、そんなことをしたことのない子なんですが。

水越  刃物が振りまわされるような施設には、息子を預けておくわけにもいかないと思いましてね。私も忙しいんですよ。出来の悪い息子のことでわずらわされたくはない。それでも命にかかわるとなれば、仕方ありません。息子は連れて帰りますよ。

園長  事件のことについては、先日もお詫びしたとおりです。監督が行き届かず、もうしわけありませんでした。しかし、仁君の行き先に、どこかあてでもあるんですか。

水越  どこか地方の全寮制の高校にでも、押し込みますよ。

園長  仁君の気持ちを確かめてみなくては、なりませんね。

水越  いや、かまいませんよ。子どもの教青方針は親が決めるべきことなんですから。(真木に)仁を呼んできてください。

     真木、圏長の同意を得て、退場。
     仁を連れて、戻る


園長  仁、こっちへ来て、すわりなさい。おとうさんが、君を連れて帰りたいといわれている。

水越  お前みたいに、うじうじしているやつは、狙われやすいんだよ。家に帰ってきてもらっても困るが、怪我をされても困る。とにかく、今日は、お前を引き取りにきた。いいな。

   (黙ったまま)

水越  短い間でしたが、お世話になりましたね。まったく、こんなに、みっともない父親の役割なんか、私のまわりでは誰もいませんよ。お前のおかげで、散々な目にあったよ。先生、私は、学校に問題があったとしか思えないんですがねえ。

園長  どんな問題ですか。

水越  この子も、上のふたりとまったく同じように育てたんですよ。塾も家庭教師もつけたし、受験もさせた。行った中学はそれぞれ違いますがね。うえのふたりは、名前の通った大学に進学してますよ。何でこいつだけが、家出はする、シンナーは吸う、そうやつてそれていつたんだか、さっぱり見当がつかない。

園長  坂本さん、どう思います。ああ、こちら、園でお願いした、臨床心理の研究者の方です。

水越  はあ。

坂本  今、うかがっただけでは、何とも申し上げようはありまでんが、お父さんに、いくつか伺ってもよろしいでしようか。お父さんは、三人の子どもさんは,昔同じように育てたといわれましたげれど、皆、同じ性格や素質を持っていたと思われますか。

水越  そりや、まったく同じということはないけれど、同じ両親から生まれているんだ。それほど大きな違いがあるとは思いませんね。

坂本  子どもって、ひとりひとり、ちがうんではないんでしようか。同じことをしても,同じ反応がかえってくるとは限らないんではないてすか。

水越  さあ。ある程度の幅はあつても、それほどはずれるなんてことはないですよ。少なくとも、私の周りを見ている限り。だから、行った学校の校風が悪かったとしか,思えませんね。

坂本  仁君が家出をした理由は、ご存知なんですか。

水越  夜遊びがしたくて、したくて、たまらなかったんですよ。家では、門限がうるさかったですからね。

   (突然)そんな単純なことだと,思ってるのかよ。

水越  なんだ、仁、その口の訊き方は。

   僕が家出をした理由、いまだにわかっていないのかよ。あんたの話を間いていると、頭が痛くなって、吐き気がしてくるぜ。兄貴たちと一緒にすんなよ。僕がどんな思いをしてきたか、今に、思い知らせてやるからな。

水越  (立ちあがって、仁の胸元につかみかかる)おまえ、いい気になるんじゃない。

   僕は、あんたたちのいいなりにはならない。あんた立ちのところへは、帰らない。ここもひどいけれど、うちよりはましだよ。もう、会いたくない。面会にも来ないでくれよ。

坂本  (間に割ってはいって)仁君、もう、やめよう。あなたの気持ちはわかつたから。

園長  水越さん、今日のところは、このままお帰りいただけませんか。仁君とは、今日のところは、このままお帰りいただけませんか。

水越  同じような事件が起きたら、ただでは済みませんよ。覚悟しまさいよ。

   早く、帰れよ。うざってえんだよ。

園長  仁、やめるんだ。水越さん、どうぞ。(背中を押すように、玄関へ向かわせる)しばらくしたら、またご連絡しますので。

    水野、園長退場

  

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もがれた翼 パートY
〜子どもたちと弁護士が
作るお芝居
この物語はフィクションです。
でも本当に
フィクションでしょうか。

児童福祉施設に送られた
子どもたち
ある日、事件が起きて、、、、
家庭で受けていた
虐待の事実が明らかになる
親に愛された経験がない
この子らを
責められるだろうか
私は何のために生まれてきたの!
私は誰かに愛されるだけの
価値がないの!
誰か、私を愛して

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国立市市民芸術小ホールにて
上演 (4月22日)


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