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<4ページ> 第3場 その2 園長、英太の担任が登場。椅子を向かい合わせてすわる。 担任 お世話になります。英太の担任の宗像です。英太は、相変わらずのようで。とにかく、けんかっぱやいんですから。 園長 いえ、今度のことはどうもおかしいのです。英太本人は、何もしゃべりませんが、ただのけんかでは片付けられないんです。英太の切れかたは、普通ではなかった。その後の状態も、異常でした。何か思い当たることはないでしょうか。 担任 さあ、特には。 園長 英太の両親は、面会にも来ないし、保護者会にも出てこない。困っています。学校の方では、接触しておられますか。 担任 いえ、こちらへおまかせしていますので。 園長 おまかせっていわれますが、学校の方の受け入れ態勢は、どうなんでしようか。 担任 学校では手に負えないから、こちらにお願いしているわけで。 園長 それではなんですか。学校は、英太を見捨てるんですか。 担任 いえ、心配するからこそ、こうして伺っているんてす。 園長 しかし、英太は、なぜ学校や家庭に、いられなくなったのか、真剣に考えておられるのでしようか。どこがまずかったのか。どこを変えれば、英太が戻れるのか。教師も、親も、生徒も、必死で考えてくださいよ。 担任 ひとりの子どものために、そこまではできないですよ。学校には、そんな余裕はありませんから。 園長 ちがうんじやないですか。ひとりの子どもを見捨てる学校は、次の子どもも見捨てるんですよ。そうやって地域も、学校も、子どもを受け入れる力を失っていく。子どもが暮らせない学校や、地域の生命力は、枯れていくしかないんですよ。 担任 それじやあ、あかつき園は、何のためにあるんですか。問題児を隔離するためでしょう。 園長 違います。ここは、いっときの子どもの避難所に過ぎないのです。子どもは、地域へ戻らなければ、成長できない。家族や学校が変わって、子どもを迎えてくれなければ、ならないんです。 担任 いやあ、役割分担じゃないですか。 園長 親も教師も、地域住民も、子どもを産んで、子どもをおもちゃにして、めちゃめちゃにしておいて、手に負えないといって、ここへ捨てにくる。子どもは、産業廃棄物ですか。ここは、産業廃棄物処理場ですか。 担任 (腰を浮かせて)まあまあ、そうむきにならないで。先生方のお力で何とかお願いいたします。会議がありますので、私はこの辺で。また、伺いますから 担任、退場 入れ替わりに、杉野登場 杉野 園長先生、何ですか、あの人。英太の顔も見ないで、帰ってしまいましたよ。 園長 期待するだけ、無駄なのかもしれないね。 真木が坂本を伴なって登場 真木 園長先生、お客様です。 園長 ああ、もうお見えになったんですか。ご苦労さまです。前もって話しておこうと思ったんだけれど、ちようどよかった。こちら、子どもの臨床心理を研究されている坂本さん。こちら職員の真木君、こちらは杉野さんです。どうぞ、おかけください。 全員椅子にすわる 園長 実は、子どもたちへの、私たちの今までの接し方だけでは、どうにもならないものがあるような気がしてぎたんだ。英太は、いったいなぜ、ナイフまで特ち出したんだろう。仁のことをそれほど柿がっていたはずもないんだ。あの時の英大は、普通じやなかった。 真木 確かに、目がすわっていましたよ。仁が仁であることも、わからなくなっいたみたいでした。 杉野 さやかちやんの話では、仁君にしても、医者の息子といわれただけで、どうしてあんなに、なつちやうんだろうというくらい、急に怒り出したんだそうです。 園長 そのさやかだって、食べ吐きをして、意味のない万引を繰り返している。なぜなんだろうか。 杉野 でも、あの朋則君の無断外出のあと、何だかさやかちやんと朋則君は、話をしたり、遊んだりしているようです。不思議な関係なんですけれど。 園長 そうした子どもたちの心の中の問題に、私たちはもう少し寄り添う必要があるのではないんだろうか。それで、坂本さんに相談して、しばらく園内で、私たちといっしよに、子どもに接してもらおうとお願いしたというわけなんだ。 坂本 子どもたちの心の中には、不用意に触れられると飛び上がる程痛い傷があるんじゃないかと思います。今、お話に出た、英太君や、仁君にしても。 真木 そう言うことは、簡単にわかるものですか。 坂本 いいえ、そういうことではないのです。でも、今まで口にすることもできなかった子どもたちの過去の傷が、何らかの形で見えてきたり、子どもたち自身に自覚されるプロセスがあると、その傷を癒す手段が見つかって、いつか子どもたちが元気になっていくという例は、いくらもあります。 杉野 どんな傷なのでしようか。 坂本 それは、いろいろです。でも、やはり親との間の問題が多いことは事実ですね。 杉野 ここにも、親との間で辛い思いをしてきたのだなとわかる子どもが、いますよ。 坂本 本当に子どもたちの傷が見え出すと、見ている大人たちの方が、どうしていいのかわからなくなつて、参ってしまうこともあるんです。でも見えないふりをして、傷口を隠しているだけでは、救われない子どもたちもいると思います。私にどこまでできるのかは、わかりませんが、ひとりでも、ふたりでも、楽になれる子どもがいてくれたらというつもりです。 真木 そうした心の傷が、子どもたちの異常な行動と結びついているということですか。 坂本 十分、考えられます。痛みに耐え切れずに、問題行動という形で発散していると思える子どもにも、しばしば出会います。 |
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