少年法の国会審議に関する要望書(2000年9月18日)


私たち、日本子どもを守る会は、近く予定されている少年法改正法律案の国会における審議に関して、次のことを、強く要請するものです。

1 ぜひとも、客観的な事実認識に基づいた論議をしてください。

これまで、少年法改正を求める議論の背景として、「少年の非行が増えており、かつ、凶悪化しているから・・・」と主張されてきましたが、そのような事実認識が正しいものなのか、間違っていたのかについて、誠実に、真剣に検討してください。

私たちは、我が国の少年犯罪が決して増えていないこと、少年の人口との比率からいっても、むしろに減り続けてきたことを、かねてから指摘し、その点で、世界の先進諸国に類を見ないほどの非行の少ない国になっていることを指摘してきました。

ようやく、最近になって朝日新聞、毎日新聞等に学者・研究者による、この点を指摘した論文が掲載されるようになりました。(朝日8月24日付夕刊・広田照幸東大助教授、「メディアと『青少年凶悪化』幻想」、毎日9月7日付朝刊・沢登俊雄国学院大学名誉教授、「実情に合わない『厳罰化』」。

それらを読まれればわかるように、「我が国の青少年の凶悪化」という現状認識が根本的に誤っているばかりではなく、現行少年法の存在が、若年成人の犯罪を含む、我が国の犯罪の発生そのものを減少させることに、大きく役立ってきたことが容易に認識されるはずです。

そして、我が国に比して、より厳罰の傾向をもっている諸国、例を挙げればアメリカと比較した場合には、「18歳未満の殺人事件では、我が国はアメリカの14分の1、青年層では28分の1に過ぎない」ことに驚かされるはずです。

これらの客観的な事実を背景にして考えた場合には、現行少年法は、成立以来、期待された役割を十分に、立派に果たしてきたとの評価が下されるべきであって、制度疲労が生じているとか、甘すぎて今日の少年非行に太刀打ちできないなどという、少年法に向けられた感情的な非難には、何らの客観的な根拠もないと認識されるはずです。

2 検察官の少年審判への関与は考え直してください。

現行の少年審判制度は(1)保護主義の理念を大前提に、(2)非行行動に対する科学的な調査と、(3)子どもにその過ちを自覚させるケースワーク活動と、(4)保護環境の改善を図る活動、などを大切な柱として成り立っています。

少年が陥った非行事実の正確な把握も、その深い解明も、少年の心の底からの非行からの立ち直りも、現在行われているような科学的調査と少年の心に食い込むダイナミックなケースワーク活動を通じて、はじめて可能になるものです。

このような現行の少年審判制度に対して、非行の結果責任を追及して、厳しい処罰を求めることが職分の検察官の関与は、真実の究明にとって、まったく不必要なばかりではなく有害に働く虞れさえあると言わざるを得ません。

主張されているような「子どもたちを処罰の厳しさで威嚇し、押さえ付けて反省させる、厳格な法廷」が非行の防止に役立つのか、あるいは、非行に陥らざるを得なかった「子どもの個別的な事情に暖かい目をむけ、それを解明しつつ『懇切を旨として、なごやかに』生活態度の改善を諭す審判廷」が非行の防止に、より有益なのかという点については、科学的な検証が必要です。

また、そのどちらかが、我が国がさきに批准した国連の子どもの権利条約の精神に沿ったものかという点も、立法上は真剣に考えるべきことではないでしょうか。

3 各分野の関係者の意見方十分に聴いてください。

前国会の法務委員会で議決された決議文には「そのためには、教育、文化、児童福祉、精神的医療・ケアなど各般にわたる課題について、少年の非行防止に向けた総合的施策を策定し」と述べられています。

私たちは少年法論議のなかで、それらの各分野で少年たちに直接かかわっている現場職員の声がほとんど反映されていないことを大変に遺憾だと思っています。

これらの方々の声に耳を傾けて、これらの方々の気持ちに応えることの出来る、現行少年法を一層充実させる方向での、総合的な施策を立案してください。

以上のことを、日本子どもを守る会は、強く要望するものです。

2000年9月18日

日本子どもを守る会 会長 中村 博


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