市民不在 子どもを追いつめる少年法改正
弁護士 平湯真人
東京・生活者ネットワーク 生活者通信No91 1999.3.1より転載
少年法改正は、法務大臣の諮問機関である法制審議会が1月21日にゴーサインの答申を出してから、法務省による法案作成作業が進んでいます。このままでは2月末に原案ができ、自民党の了解を得て3月はじめには国会提出の予定と伝えられています。
内容は、家庭裁判所の裁判(審判)手続きで、子どもが事実関係や動機など捜査機関の見方を争った時は、検察官を参加させて追及させ、裁判で子どもの言い分が認められたら検察官に不服中立権を認め、審理中の拘束期間も4週間から12週間に大幅延長する、というものです。
これとは別に自民党では、刑事処分(家庭裁判所の処分のひとつとして大人と同じ刑事裁判手続きにまわすこと)にできる年齢を16歳以上から14歳に引き下げ、親にもペナルティを課そう、という改正方向を決めています。
このような改正の動きの問題点としては、まず法律家と官僚だけで進められている、ということです。審議会のメンバーのほぼ全員が検事・判事・警察官・法律学者と弁護士で、家庭裁判所の調査官や教育・福祉・心理・精神医学など専門家の意見さえ聴かず、まして子どもの非行と向き合っている親や市民の声は一切聴いていません。
従って、子どもがなぜ非行をするのか、どうしたら非行をなくせるのか、非行をなくすために社会の大人は何をすべきか、子どもの人権をどう考えたらよいのか、というような観点からの議論はされていません。子どもが家庭・学校・社会の中でさばざまに苦しみ、ガマンを強いられている現状は無視されています。
改正内容を一言でいえば、「子どもは家で何をするかわからないから厳しく処罰すべきだ」「子どものウソを見抜くためには裁判官だけではなく検察官も応援が必要だ」というもので、徹底的な子ども不信であり、また苦しんでいる子どもたちを一層追いつめるものになっています。
また、改正の口実として「被害者保護」をいっているのも特徴です。これまで犯罪の被害者は、オウム事件・交通事故・性犯罪などの例に見るように、社会的な支援を受けられずにきました。ところが少年による犯罪の被害のみが一面的に強調され、検察官を審判に加え少年を厳しく扱えば被害者は保護される、という説明がされています。
この改正の動きにストップをかけ、非行の防止のために本当に必要なものは何なのか、子どもの視点に立った、市民による少年法改正論議に転換することが緊急に求められています。
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