少年の「保護」「健全育成」を掲げた少年法の理念を侵す厳罰化に反対します
自民・公明・保守の与党3党は、9月29日、少年法「改正」案を議員立法として衆議院に提出しました。
この「改正」案は、第一に、刑事罰を科す年齢の下限を16歳から14歳に引き下げること。第二に、16歳以上の少年が故意に人を死亡させたなどの場合、原則として検察官に送致(「逆送」)して裁判にかけること。第三に、家庭裁判所で行われる審判に対して検察官の出席をもとめること。第四に、家庭裁判所の決定に不服がある場合、検察側に抗告受理の申し立てができる制度を導入すること。第五に、家庭裁判所の審理の際の身体拘束期間を8週間に延長すること。など先の国会で廃案になったものより厳罰化の方向を強めたものとなっています。
少年法は、1948年7月「少年の健全育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う…後略」(第一条)として制定され翌49年1月から施行されました。この間の50年あまりの中で総体として、少年非行の中での殺人などの凶悪犯罪の減少、少年院での処遇効果の高さ(少年院初回入所者85%以上、成人受刑者45.5%)や被害者に対する謝罪の気持ちの高さ(少年院入所者71.9%、成人受刑者37.6%)などから、少年法は、有効にその機能を果してきたといえます。
しかし今、刑事罰を16歳から14歳に引き下げ成人並みの処罰を科するということは、更生可能な少年を更生不可能な"犯罪者"に追いやることになりかねないことになり認めることはできません。また、義務教育段階の少年の教育保障の点からも大きな困難が生じます。
少年非行は、「思春期の特徴からくるもので元々は一過性のもの」、「環境に敏感な思春期の少年犯罪は、根が深く裾野が広い」(団藤元最高裁判事)などの特徴をもっており、対応を誤ると少年の将来にとって取り返しのつかないことになると考えられています。そのため現行法では、少年の更生にとって重要な鍵になる少年一人ひとりが事件を起こした経過、その少年の成熟度、抱える問題の大きさ等を考慮し、検察官に送致して成人としての処罰を受けさせるべきか否かを検討する余地があるものになっています。しかし、原則「逆送」ということになれば、なんの考慮もなく事件の重大さだけで大部分が「逆送」されることになり、少年法の保護機能が失われることになりかねません。また、少年審判の場に検察官の出席をもとめることは、審判の場で、裁判官と少年が向き合い、人間的なかかわりの中で、少年が心を開き、自分の起こした事件について自ら語る気持ちになれるようにするという少年法の重要な部分を蹂躙することにつながります。同時に、家庭裁判所の決定に対し抗告受理申立権(申し立てを取り上げるかどうか高裁の自由な裁量で決める)を新設することは、事実上抗告権を認めることにつながり、身体的拘束を長引かせ、今以上に冤罪を生む危険をはらんでいます。
被害者の救済、権利保障については重要で、積極的にすすめなければなりません。しかし、「改正」案では、捜査段階におけるとりあつかいが欠落しており不十分といわざるを得ません。被害者救済については、捜査段階からの丁寧な対応を含め、抜本的な対策がとられるべきです。
今回の少年法の「改正」は、いわゆる「17歳の少年」などによる凶悪で重大な事件が起こっていることによると思われます。しかし、「子どもは社会を映す鏡」です。政治の腐敗や汚職、リストラ・合理化による家庭破壊や就職難が子どもたちの未来を暗く閉ざしています。国連子どもの権利委員会も指摘した受験中心の競争の教育制度が子どもたちから学ぶ喜びを奪い、ストレスを増大させています。子どもたちを取り巻く雑誌やテレビ、インターネットなどメディアを通して性の商品化や暴力を肯定する文化状況の広がりの中で、子どもたちの人間的な尊厳は、傷つけられています。こうした非行の原因を作っているおとな社会の歪みを正すために、関係団体や個人、政治の力による解決のためのとりくみが迫られています。こういったとりくみなどを抜きに、責任を子どもたちに押しつけ、「厳罰化」で追っても根本的な解決はあり得ません。
そういった意味でも、少年法「改正」問題は、子どもたちが人間として大切にされる学校と教育、社会の実現をめざすとりくみからみても重要な課題といえます。新聞報道でも「与党案には、疑義がある」として、「安易な厳罰化に走らず、地に足の付いた論議をするようくりかえしてきた。だが、期待は裏切られたというほかない」「このような改正によって本当に青少年に規範意識が芽生え、犯罪抑止につながると与党の議員は、考えているのだろうか」(9/16朝日・社説)と疑問を投げかけています。
こうした状況にもかかわらず、さる10月6日、与党の議員のみの出席で衆議院運営委員会が開催され、本会議での趣旨説明もされないまま、法務委員会に付託され、10日、与党のみの出席で質疑が行われ、さらに参考人招致,二つの少年院視察まで強行されようとしています。少年の未来にかかわる重大な法案がこのような議会運営の中で、十分議論を尽くされないまま強行されることに抗議し、与党のみの審議で委員会運営を行うことを中止するよう強くもとめるとともに、この法案を撤回し、少年法の理念が生かされる運用を望むものです。
2000年10月17日
全日本教職員組合中央執行委員会
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