少年法の精神を損なう厳罰化「改正」に反対します

一、自民・公明・保守の与党3党は9月29日、少年法「改正」法案を衆議院に提出しました。この「改正」法案は、第一に刑事処分を科すことが可能な年齢を、現行の16歳から14歳い引き下げること、第二に16歳以上の少年が殺人や強盗致死などを犯した場合は、原則として刑事裁判を受けさせることとしています。また第三に家庭裁判所で行われる一定の審判廷に対し検察官の出席を認め、さらに事実上、家庭裁判所の決定に対し検察官が抗告できるような制度等が盛り込まれており、全体として厳罰化に向けての「改正」ということができます。

二、14歳以上24歳までの青少年が検挙される場合は戦後一貫して低下しています。10代後半から20代前半の青少年の凶悪犯や粗暴犯も減少しています。また約9割の非行少年は、一、二度捕まったら再非行を犯さなくなるし、保護観察や少年院への送致もを受けた者も、その後大半は、更生しています。これらの事実は、現行少年法の下で、同法が持つ保護機能がうまく機能し、青少年の犯罪率を低下させていることを示しています。

 今、16歳から14歳に下げて成人並みの刑事処理を行おうとすることは、更生可能な少年を更生不可能な”犯罪者”とする危険を含むものであり、これらの「改正」案は認めることができません。

 また、審判廷に検察官の出席を認め、事実上、家庭裁判所の決定に対し抗告ができるような制度を認めることは、審判廷における少年の教育的機能、つまり少年と裁判官が向き合い、少年は非行についての意見を言い、裁判官はこれに応答しながら審判を進め、少年の納得のもとで進行させるという機能を大きく損なうものであり、これを認めることはできません。

 さらに、被害者の救済、権利保障は積極的に進められなければなりませんが、「改正」案では一番重要な捜査段階でこの点が欠落していることなど不十分なものと言わざるを得ません。被害者救済は独自の立法を含めて抜本的な対策が講じられるべきです。

三、少年法「改正」案が提出されるその背景には、今年に入ってから17歳による悲惨で重大な事件が連続していることや、従来の数を頼んでの集団非行タイプから、内向的で問題がないと見られていた子どもによる「いきなり型」の重大な非行が起こっていること等があると思われます。

 しかし、「非行は社会を映す鏡」です。今、子どもたちは、早期からの選別と競争の中に投げ込まれ、管理と締め付けの中で学ぶことの本来の喜びを奪われ、息苦しい生活を強いられています。また「モノとカネ」の消費の洪水、特に雑誌・テレビをはじめとして様々な媒体による性の商品化や暴力を肯定する荒廃した文化状況は、子どもたちの人間的尊厳を傷つけ、自らの未来に向かって生きる”めあて”を見失わせています。また構造的不況とリストラ、長時間・超過密労働の実態は、くつろぎの場である家庭の基盤をおびやかしています。同時にこのような社会状況を改善できないばかりか、汚職、腐敗があとをたたない政治の問題もあります。

 少年問題については、このような社会的・文化的状況などの問題を明らかにし、子ども自身と保護者や子どもにかかわっている多方面の専門家の意見も十分に聴き、その原因を解明し、その上で子どもの成長・発達権を保障することを第一次に考慮した改善の方針が考えられるべきです。日本も批准している「子どもの権利条約」や、少年非行に対する国際的な到達点といういる「少年非行予防のための国連ガイドライン」等にもこの立場が貫かれています。70年代以降厳罰化の方向に向かったアメリカでは、自暴自棄になった大量の若者たちを生み出しているという事実もあります。

 少年問題へのとりくみは、こうした視点から幅広い国民的議論の中で、少年法の改正が必要か否かも含めて、十分な論議がされるべきです。

四、にもかかわらず、今回の法案は教育基本法「改正」や道徳教育の強化をねらう森首相らの与党幹部の、政治的思惑と数の論理が優先される中で、あわただしく提出されました。さらにこの「改正」案は、法制審議会の議論を経ていないという、手続上も重大な疑念があるものです。

 私たちは、与党三党がこの法案を撤回するように強く求めます。

2000年9月30日

子どもの権利・教育・文化 全国センター

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