2000年11月7日

少年法改正を考える


横浜家族少年問題研究会代表
野口のぶ子
(当研究会は、現役及び元家裁調査官で構成されています)


 現行少年法の理念に真っ向から対立する改正点を含んだ法案が、国民的論議は勿論、改正を企図としている筈の与党議員からされ、その必要性についての説得力はある見解は、聞かれないまま、極めて非民主的な形で成立しようとしています。こんなにまで軽く扱われる少年法、その理由を考えてみました。改正の中枢にいる人々、及び極めて単純に改正に賛成する国民のいずれにも、現行少年法及び我が国の非行少年についての大きな誤解があるのではないかと思うようになりました。また少年法も非行少年も、自分たちとは全く無縁の存在と考えていることはないでしょうか。そうでもなければ、現代の若者についてこれだけ想像力を欠いた改正案はないと思われるからです。少し想像力のある人ならば14才の少年が刑事法廷に立つ姿を想像してみてください。いかめしい刑事法廷の中で少なくとも5人以上の大人の法律家に対峙されるのです。難解な法律用語で質問されても、その意味を理解でき、自分の言葉で応答できる子は何に入るでしょうか。大人の法律論争の中に埋没し、さながらいじめの構図そのものにもなりかねません。そして少年たち一人ひとりが内的資源として持っている、何よりも大切な可塑性、教育可能性の芽は摘み取られるのです。16才以上の重罪事件原則逆送の改正点もう可塑性の抑圧、個別処遇の否定に繋がります。重罪事件に至る子には、古典型、現代型を問わずいくつかの共通点があります。

1.愛に飢え、誰かに認められることを渇くように願っている。

2.加害者性の裏側に、被害者性を抱えている。身近な大人からの虐待、暴力、放置、過干渉、仲間からのいじめ等に深く傷ついている。

3.自尊感情が失われていて、己の無力感にいらだち自己肯定感を持てず、自分は生きていても仕方がないと思っている子も多い。

 この子たちが立ち直るための第一歩は、「どこかで誰かに丸ごとを受け入れらた、愛されている、存在が認められた」との実感を得ることです。人への信頼感が回復し、自己肯定感が持ててこそ初めて罪の意識にも目覚めることができます。

 少年法の許で、少年と関わった経験がある人が等しく味わう実感は、少年は年少であればあるほど、また重罪に至る子であればあるほど、より教育的、福祉的働きかけを必要としているということです。そうして大人が適切な支援を惜しまないかり、どの少年も甦るのです。改正少年法が目指すものと、現実の少年像との乖離の大きさをわかってください。私は、少年法と少年、またその周りで少年の更生に力を尽くしてきた人たちはに互いに育ちあいをしてきたと思います。少年法の理念が少年の更生を支え、少年の更生が周りの支援者たちの意欲を支え、それがまた少年法の理念を支えてきたといえると思います

 過去50年間、現行少年法が、少年の健全育成に資した功績ははかり知れません。

 まだ遅くありません。もう一度少年法をじっくり読んでください。そうして非行少年たちと処遇の現場で関わっている人たち、あるいは市井にあって少年たちと暮らしを共にし、彼らの更生に心血を注いできた人たちの話を聞いてください。そうして同時代を生きる大人として少年たちの成長を支え、見守る一人となってください。

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