少年法「改正」法案反対、徹底審議を求める緊急集会(報告)

2000年11月20日(月)弁護士会館 12階主催
日本弁護士連合会


1、 少年事件付添人の報告と意見

(1) 東京江東区警察官襲撃事件 … 山下幸夫弁護士 

<事件の概要>
 中3の非行暦のまったくない少年が警察官の拳銃を奪おうとしてナイフで襲撃した。強盗殺人未遂・公務執行妨害・銃刀法違反・占有離脱物横領などで家裁に送致され、殺意を争ったが認められず、少年院送致となった。

<付添人の報告・意見>
 本件は3年前に神戸の小学生連続殺傷事件のあとに起きたので、報道はまたも中学生による凶悪な事件が起きたと大きく報じた。警察での供述調書も、いかにもこの少年が計画的に凶悪な犯行を犯したかのように作成されていた。ところが付添人が会ってみると、少年はごく普通の少年で、本件もストレスによる衝動的な犯行であることがわかり、マスコミにもその実像を伝えるよう努力した。近所の人も、日頃の少年のまじめさを知っていたので、嘆願書を集めてくれた。この少年を担当した家裁の調査官は、雑誌『世界』の12月号で次のように述べている。少年は、何を聞いても「うん」「うん」と言うばかりで、まったく自分自身の気持ちもわからず、自己表現もできない、幼児のように未熟な子だったと。付添人としても、まさにそのとおりだと思う。

 少年法「改正」案との関係で本件を見ると、本件少年は15歳だから、14歳以上への逆送年齢引き下げの問題にあたる。仮に本件少年が、刑事裁判にかけられたとしたら、法廷で何が行われているか、彼にはまったく理解できず、何を聞かれても「うん」「うん」と答えてしまうだろう。彼に限らず、今の中学生のほとんどは言葉で自分を表現する能力が極めて未熟であり、刑事裁判の対象とするのは到底無理である。

(2)岡山母親殺害事件 … 高崎和美弁護士
 
<事件の概要>
 今年6月21日、17歳の少年が県立高校野球部の後輩部員4人を金属バットで殴打し重軽傷を負わせ、さらに自宅で母親を金属バットで殴打して殺害した。自転車で逃走し16日目に秋田県内で逮捕された。8月7日に、殺人・同未遂で広島家裁に送致され、家裁調査官が5名ついて個別処遇すべきとの意見を出し、8月31日特別少年院送致(2年ないし2年半との処遇勧告付)と決定された。

<付添人の報告・意見>
 本件少年は、まじめすぎるくらいまじめな少年であって、この事件が起きた背景には社会全体のゆがみやプライベートな出来事の中での様々な行き違いがあった。子どもが以前より未熟になっていて社会情勢が変わってきているのに、学校は変わらず、大人がこれにどう対処したらいいのかをわかっていない。本件のような少年には、まさに調査官がていねいな調査の上で結論付けているように、個別的な処遇が必要である。付添人3名の中には、被害者援助に熱心な人も含まれていたが、その人も同意見だった。

 少年法「改正」案との関係で見ると、本件は殺人事件であるから、原則逆送という問題にあたる。現行少年法では、たとえ殺人事件でも十分な調査によって少年の資質や問題点を見極め個別処遇という結論が導けた。しかし、原則逆送ということになると、逆送しないためには、なぜ逆送しないのか、なぜ例外なのか、という理由を示さなければならなくなり、その難しさ故に本来個別処遇が必要な少年まで刑事裁判にかけられてしまうだろう。「改正」法案の提案者は、社会を納得させるために原則逆送を取り入れると言うが、本件のような少年にただ刑事罰を科すのみだと少年は問題を抱えたままいずれ社会に戻ってくる。社会防衛という言葉はあまり好きではないが、社会防衛を考えても、このような法案が成立すれば、あとで社会が大変なことになると言わざるを得ない。

(3)横浜電車内ハンマー殺人未遂事件 … 石川恵美子弁護士

<事件の概要>
  今年5月12日、17歳の少年が、JR根岸線の電車内で乗客1人をハンマーで殴打し重傷を負わせた。殺人未遂で8月25日に横浜家裁に送致され、9月20日に医療少年院送致(相当長期が相当と処遇勧告)と決定された。
 
<付添人の報告・意見>
 本件は、少年が警視庁や新聞社に犯行声明を送っていたこと、凶器がハンマーと報道されたことで、社会的に非常に計画的かつ凶悪な事件と受けとめられた。ところが、少年は非常にきまじめで非行暦もなく、自分の存在感が感じられず、親から可愛がられていないと思っている少年だった。彼には、今年1月頃から「人を殺せば楽になる」という子どもの声が聞こえるようになり、次第にその声がうるさく強迫観念にとらわれるようになった。一方で「人を殺さなくては」と思うと同時に、「誰かに止めてほしい」と念じてもいた。  

 実は、犯行声明を送ったのは、そうすれば誰かが自分に「やめなさい」と言ってくれるだろうと思ってのことだった。なぜ神奈川県警ではなく警視庁に送ったのかと聞けば、「警察の正式な名前が警視庁だと思ったから」と答える幼稚さだった。なぜ被害者を襲ったかと聞くと、「小学生のとき犯罪被害に会い、そのときの加害者について覚えていることは若い男ということだけだったので、今ならその男は大人になっているだろうと思い、大人の男を選んだ」という答えだった。ハンマーと報道された凶器は、実は長さ22センチ重さ200グラムしかない軽くて小さな物で、少年は被害者から50センチ離れた席にすわったまま、この貧弱な凶器でポンポンと2回被害者の頭を叩いただけというのが、犯行の実態だった。

 もし改正案が通ったら、少年は原則逆送の規定によって刑事裁判に付され、子どもの声が聞こえたという話しも、否認しているとか、悪質な詐病だとかにとられかねない。殺人を犯すような少年は、自分を大事にできない。だから他人の命も大事にできないのだ。そのような少年たちに厳罰を警告しても、何ら犯罪の抑止にはつながらないのである。

(4)佐賀バスジャック事件 … 東島浩幸弁護士
 
<事件の概要>
 今年5月3日、17歳の少年が、西鉄高速バスを乗っ取り広島まで走行させ15時間にわたり乗客を人質にした。牛刀で乗客1人を刺殺、4人に重軽傷を負わせ、強盗殺人・同未遂・強盗致傷・人質による強要行為等の処罰に関する法律違反・銃刀法違反で6月5日広島家裁に送致され、6月6日に佐賀家裁に移送された。調査官5名、付添人10名がつき、6月16日鑑定留置決定。解離性障害(自分を統一的存在として認識できないこと)と診断され、9月29日医療少年院送致(少なくとも5年以上との処遇勧告付)と決定された。

<付添人の報告と意見>
 少年は年齢に比して体が小さく不器用で人付き合いが苦手な性格で、小5くらいから集団でのいじめにあっていた。中1から護身用にカッターナイフを持ち歩くようになったが、学校の規範には過度に忠実だった。自分を何の取柄もない弱いみじめな存在と感じ、せめて成績だけは良い点を取ろうと勉強し、中2ではトップクラスとなったが、中3で成績は下がり、夏休みにはまったく勉強が手につかない状態となった。

 中3の2月18日、級友に筆箱を隠され、「返してほしければ、飛び降りてみろ」と言われて飛び降り、1ヶ月の入院を要する骨折をした。そのため中学校最後の卒業式等にも出られなかった。高校は、県内でも2番目の進学校に合格していたのだが、ケガのせいで入学前にしておくべき宿題ができなかったこともあって、わずか9日間で不登校となり、やがて中退せざるを得なくなった。少年は、不登校や中退を世間に知られたくないという思いから家に引きこもり、自分の価値がまったく感じられない、出口が見えない心境となった。このような時に父が与えたパソコンがきっかけで、猟奇事件やあまり質の良くない掲示板でのメールのやり取りに熱中するようになった。また少年には、「世間に注目されるような大きな事件を起こせ」という“別の声”が聞こえていた。出身中学校に立て篭もり、人を殺して自分も死のうと考え、刃物を買って総理大臣宛ての犯行声明を送った。両親が気づいて精神病院に入院させたが、医師を騙して外泊を許可させ、ひとりでサイクリングに行くと両親に告げて家を出て、犯行に及んだ。少年は、豊川市で起きた17歳少年による主婦殺人事件の報道を見て「先を越された」と思っていた。

 精神鑑定の結果は、解離性障害であって分裂病ではないとされたものの、今後分裂病になる可能性は否定できないとのことだった。
  
<付添人の報告と意見>
 本件は、自殺するための殺人である。自分が死ぬに際して、自己の存在証明をしようとしたのである。このような少年に厳罰化は何の意味も持たない。また、被害者の多くはあのまま変わらないで出てきたらこわいと言っている。もしこの少年が刑事裁判に付されていたならば、解離性障害がさらに多重人格にまでなってしまう恐れすらあったと言わなければならない。

2、少年犯罪被害者遺族(少年犯罪遺族の会)の発言 … 高谷孝子さん

 私の息子は5人の少年から暴行を受けて亡くなりました。

 3年前の日曜日の夜、突然警察から「病院に来るように」という電話がありました。私は、「うちの子が何か悪い事をしたんですか」と聞きましたが、警察の人は「今、病院にいる。オペしてる。」と言うばかりで何も教えてくれません。慌てふためいて病院に行くと、今度は息子に会わせてもくれないまま、警察の人に「家族構成は?職業は?」などといろいろ質問され、私は息子のことが心配で気が気でなかったのですが、全部きちんと答えました。そのとき、私の横をどこかの知らないお兄さんが移動式のベッドで運ばれて行きました。ちょっと息子に似てるなと思って覗き、「やっぱり別人だ」と思いました。ところが、それが私の息子だったのです。それくらい変わり果てた姿になっていて、母親の私にさえ見分けがつかなかったのです。

 その後も警察は、息子に何が起きたのか、何も教えてくれませんでした。わかったのは、せいぜい少年5人がお酒を飲んで、うちの息子を死なせたというくらいのことでした。弁護士さんに頼んで、やっと供述調書の写しを取ってもらい、はじめて本当のことがわかりました。でも、もうその時には、少年達に対する審判も終わっていたのです。

 私も当初は、少年達を恨みました。でもだんだんに、恨んでばかりいてはいけない、14才で刑事罰というよりも、やはり少年達の更正を考えてあげなくちゃ、と思うようになりました。人を恨みつづけるのは辛いのです。今私は、裁判所で修復的司法として加害者と向き合おうとしています。加害少年達はもう少年院を出ています。私は、少年達が今どうしているのか、事件のことをどう思っているのか、知りたいのです。

 先日(14日)も慎重審議をお願いしたいということで記者会見もしました。短期間で決めることではないと思います。

(文責 山田由紀子)

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