少年院等の関係者の発言(紹介)

少年非行は変わったのか


 法務省矯正局(少年院や少年鑑別所を管轄している)では、現場で非行少年に接している職員(精神科医師や心理職を含む)による検討結果をふまえて、平成10年の秋に「現代の少年非行を考える」というパンフレットにまとめました(政府刊行物販売所で入手できます)。また坂井矯正局長が雑誌「罪と罰」平成10年11月号でこれを紹介しています。これらの中で、「少年非行は変わったのか」という基本的な問いに対しては、数的な増加は「甚だしく多いとも言い難い」が、質の問題としては「精神発達の未熟な少年たちが増えている」のであって「性格の歪みの著しい、了解不可能な子どもたちが生まれつつあるのでは決してない」、従って「働きかけの本質的な部分は変わっていない、それは自分が『必要とされている』という実感を持たせることだ」と強調しています。また「残酷な事件における『罪障感の希薄さ』も、未熟さのゆえに残酷であることについて、本当の意味で理解していないのではないか」と指摘しています。

実証的なデータによる論議が必要

 東京保護観察所・吉田課長発言「近年、少年による凶悪事犯が相次いだことなどから少年法のあり方が問われ、厳罰化あるいは少年法の適用年齢の引き下げ等の必要性が論議されている。そうした論議の中で必要なのは、印象や推測に惑わされるのではなく、少年非行が実際に変容(特に凶悪化)しているのかどうか、現在の保護処分がどの程度効果を上げているのか(いないのか)、保護処分より刑罰の方が効果がある場合があるとすればどのような少年にどのような状況で適用した場合か、といったことについて実証的なデータを積み重ねていくことであろう。」(「罪と罰」平成12年5月号)

贖罪指導・贖罪教育の重要性

 広島少年院・品田院長発言「加害者が、被害者等に与えた心身上財産上等の被害の実態を直視して責任を自覚し、罪障感を感じ、贖罪意識にまで深められることが矯正教育の目指すところ」(「法律のひろば」平成12年2月号「被害者と非行少年処遇」)

 多摩少年院・八田首席専門官ほか3名発言「少年が非行事実から目をそむけず、またそれに押しつぶされるのではなく、それを背負ってひとりの人間として生きていく責任や強さを育てる指導を通じて、はじめて『償い』の気持ちが確実なものとなり、真の社会復帰につながるといえる。このような矯正教育の一環としての贖罪指導は、まさに少年の健全育成の理念に合致するものであるということができる(中略)重大な犯罪・非行をしたとしても必ずしも刑罰でなく、保護処分として少年院において贖罪指導を行い、被害者に対する責任、償いを考えさせることの意義は甚だ大きい」(「矯正教育研究」第45巻平成12年3月刊「少年院における贖罪指導を巡る諸問題」)

 なお具体的な実践報告としては、宇都宮少年鑑別所首席専門官の藤岡淳子さんの、川越少年刑務所在勤当時の詳しい報告があります(「刑政」平成11年4月号「矯正教育に『被害者の視点』を入れる−−試行事例と今後の展望)。

在院者は被害者についてどう思っているか−−意識調査

 平成11年度(同年11月刊)の犯罪白書の特集「犯罪被害者と刑事司法」の中で取り上げられ、それをもとに広島少年院の品田院長が上記「法律のひろば」論文で紹介。

 被害者や家族の感情としては、「自分の処分を軽すぎると思っており(34%)」、「一生自分を憎み続ける(43%)」「自分がいつまでも施設から出てこないことを願っている(35%)」と考えています。事件の責任について「自分に責任がある(95%)」と考え、謝罪については「謝罪をした」が17%、「謝罪するつもりはあるが、していない」が73%で、後者の大部分は「機会がなかった」というもの。罪の償いとして一番大切なことは「社会で更生すること(64%)」「被害者等の許しを得ること(11%)」「被害者等に謝罪すること(9%)」となっています。また、事件直後と比べて被害者に申し訳ない気持ちが強くなった」と60%の少年が答え、その内の66%が「職員の面接や指導がきっかけ」と答えています。

被害者と加害少年との接触

 なお被害者と加害少年との接触については、現在のところ面会・手紙を含めて慎重に扱おう、という考えのようです(上記品田論文)。仮退院前の不安な気持ちを一層動揺させることを懸念してのことと思われます。これはいわゆる加害者被害者協議の問題ですが、これについては、仮退院後の保護観察を担当する法務省保護局が積極的で、今年の3月には米国ミネソタ州で活動中のNGOを招聘して勉強を始めたようです。

少年院を出た少年の再犯

 少年院を仮退院して保護観察になる少年は例年4ないし5,000名いますが、保護観察中の再犯により保護観察を取り消され、再度の少年院送致または懲役刑となる者は例年約15%(平成10年で約750名)です。(そのうち最初の罪名が殺人だった少年について再犯の内容を見ると、この10年間交通事犯だけです。)少年のうちは再犯せず成人になってから再犯する者もいるわけですが、それでも初めて刑務所に入所した成人のうち少年時に少年院にいた者は例年約10%(平成10年で約1,000名)です。従って、少年院や仮退院後の保護観察が再非行の防止に相当効果を挙げていると言っていいと思います。(法務省「犯罪白書」等からの分析)

少年非行の背景としての子ども虐待

 上記藤岡首席専門官ほか「非行少年の処遇を行う者にとっては、非行少年に被虐待体験が多いことは『常識』である。」(平成12年11月日本子どもの虐待防止研究会の同題の分科会での報告) 
 
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