少年法「改正」法案の通過に対する声明
2000年11月28日
少年法「改正」法案が、さきほどついに可決されてしまった。
「刺された時、本当にこれだけ少年は傷ついていたのかと感じた。私が死んだら彼を殺人者にしてしまうと思いました。後になって、ここまで彼を追い込んだのは何だったのか。周りのおとなは何をしていたのだろう。もっと早くに、彼のこういう気持ちに気づいていたならば、こんなことを起すに済んだのではないかと思いました。」これは、ゴールディンウィークに起きたバスジャック事件の被害者・山口由美子さんの言葉である。
「問題」行動を起す子どものほとんどは、小さいときから、暴力・侮辱・無視・抑圧などおとなが作った社会でいろいろな形で傷つけられてきている。子どもはその絶望感の中で、追いつめられて不幸な形で爆発する。残念ながら、こんな子どもたちの姿は国会では見えていなかった。
子育てしている親たちの孤立感と不安も深刻な状況になっている。これを解消することなく、親たちの責任を言うならば、ますます子どもへの管理・抑圧は強まり、悪い結果をもたらすだけだ。
少年法「改正」法は、「問題」子ども、「問題」親という形で切り捨て、隔離・排除で終始してしまった。インクルージョンの方向とはまったく逆である。
内閣不信任案決議時の松浪議員の「コップ水かけ事件」をテレビで見たときには、驚きで一杯だった。松浪議員は、少年法「改正」法案の提出者なのだ。国会こそ言葉で伝えなくてはならない場所である。開いた口がふさがらなかった。問題なのは、こういう政治家によって「規範意識を強化するのだ」として少年法「改正」法案が提出されたことである。しかも、衆参の法務委員会での審議中は、与党席はほとんどガラガラ。携帯電話をかける議員までおり、「学級崩壊」どころではない。子どもがこの光景を見たらどう思うだろうか。
こんな国会で、子どもの権利を守ろうという大切な法律が消えていく・・。怒りと情けなさを通り越して、悲しい、としか言いようがない。
少年法「改正」法案は通った。が、実際に運用するときにどうなってしまうだろう・・。疑問ばかりだ。例えば、義務教育年齢の子どもが逆送されたら、刑事裁判に付される。刑事裁判決着までにどのくらい時間がかかるだろう?、その間どこに拘束されるの?、学習権は?・・。そして、もしも、長期にわたって争い、冤罪だったら?。この子どもの学習権を奪い取った国は、彼の成長発達の保障をどのようにするのだろう?・・。
保岡法務大臣は「規範意識」をもたせるために少年法を「改正」すると言う。そしてそれだけでは不十分だから憲法と教育基本法の「改正」も考えていく必要があると言う。奉仕義務を課したり、教育基本法の「見直し」をいう教育改革国民会議、そして憲法調査会といった管理統制を推し進めようとする動きが次々と見える。どうやら少年法「改正」はその第一手段で、その「口実」であることが見えてきた。
しかし、日本は子どもの権利条約を批准しているのだ。子どもの権利を十分に保障してこそ子どもが成長するという条約をどう理解しているのだろう。それはまさに、憲法と教育基本法の理念を生かすことだ。そして、少年法の理念もそうだったはずだ。本当の意味の規範意識は、このことをしっかり生かすことによって身につくはずだ。
ただ、少年法「改正」法案を提出した与党も、少年法の理念を生かすと言っている。それを家庭裁判所に委ねると言っているのである。だから、家庭裁判所の責任は重い。家庭裁判所は、少年法の理念を最大限生かして運用すべきだ。犯罪の外形的事実で判断したり、検察官が入れば、理念は崩れる方向に行く、そのことを認識して運用してもらいたい。
わたしたちはこれからも少年法の理念が崩れないように、さまざまに工夫して活動し監視していく。そして、地域で子どもをサポートし、悩む親と共に考え、共に生きあえる社会を目指す。それと同時に、管理統制の方向に向かおうとしている教育「改革」や憲法「改正」の動きを阻止していく。
検察官関与に反対し少年法を考える市民の会
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