2000年11月8日
「少年法の一部を改正する法律案」本会議質問
民主党・新緑風会 竹村 泰子
私は民主党・新緑風会を代表して与党提出の「少年法の一部を改正する法律案」に対して質問いたします。
本題に入ります前に二点、総理に質問したかったのですが、残念ながら総理のご出席がかなわないので官房長官に代わってお答えいただきたいと思います。
先ず、日英首脳会談で、朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致疑惑に関して総理が「行方不明者として第三国で発見」という打開策を明らかにした問題で閣僚会議や自民党総務会、若手議員からも批判が噴出したと聞いております。
私たちが総理大臣としての資質を問うのは初めてではありません。曰く、「神の国発言」「無党派の市民層は寝ていろ。」発言。曰く、コーエン米国防長官との「いわゆる日本はビンのふた」発言等々。枚挙にいとまがない。今回の日本人拉致疑惑に関しては、拉致されている人々や家族にとって危険な状態を招きかねないことからして、一国の総理大臣として国際感覚を欠き、外交の基本を認識しない、いかに軽率な発言であったかを率直に認め、辞任されるべきと考えます。(官房長官)
二点目は、中川前官房長官の辞任問題です。この間の発言の二転三転、食い違い、逃げ腰の姿勢、警察の捜査情報を女性に通報するテープを出されてついに辞任に追い込まれるお粗末さ。森内閣は改造を待つまでもなく、もう崩壊に向かっているといわなければなりません。どの様に考えておられるか明確な答弁を求めます。(官房長官)
私が「少年法」の質問に先立ちこの二点をお尋ねしたのは、こうした国のトップにあるお二人の、物事を嘘で固めてその場を切り抜けようとする情けない姿勢が成長期にある青少年にどういう影響を与えるか、決して無関係とは思えないからです。
少年犯罪が起きる度に「少年犯罪は凶悪化、低年齢化し、増加している。少年法を厳罰化すべきだ」と報道され、世論がそのように操作されがちです。確かに少年犯罪は多様化し、凶悪な殺人事件も目につきます。しかし、「犯罪白書」のデーターを見れば少年刑法犯の検挙数は、83年をピークに95年までは減少していました。その後はやや増加傾向にありますが、激増しているという風な言い方は正しくありません。では、凶悪化しているのかといえば、同じく「犯罪白書」によると少年法の成立時、つまり1948年から60年代まで殺人等は300〜400人ですが、75年以降は100人以下の状態となり、現在に至っています。
与党のみなさんは、この少年法改正を何を目的として行おうとしているのか、まずお尋ねします。
もちろん従来とは異なったタイプの違う犯罪が目立つことを踏まえ、私も社会の変化に見合った改正の要否を検討することの必要性があることは、承知しておりますが、「少年法改正」により年少者の犯罪が減るとお考えなのでしょうか?その点もお伺いします。(発議者)
「少年法」改正の問題に必ず挙げられることとして、犯罪被害者の方々に対する対応の問題があります。
被害者または被害者家族の皆さんへの問題を考えるとき、加害者が成人であろうと、少年であろうとその被害に対する痛みは、それぞれに重いものであるということは、当然のことであります。そのことを前提として、「少年法」の保護理念とは別に行為の責任をとらせることが重要であるとの論理が今回の改正案の一要素であるとは思いますが、少年たちに刑罰だけが責任を取らせる道であるのかどうか、ということに関しては、疑問があります。法務大臣は、この点どのようにお考えですか?おたずねいたします。(法務大臣)
被害者の方たちのお話をうかがうと、「自分たちの痛みを加害少年は、本当に理解し反省し処分されたのかどうか。」とやり切れぬ気持ちを持っている方が殆どです。
改正案の中において、事件記録の閲覧、家裁において被害者の心情・意見の表明聴取が可能になるという点は一定の進展かと思いますが、私は、加害少年が自らの行為の重大性を自覚し、被害者に対する心からの謝罪の気持ちを喚起し、再犯の道を歩ませないことこそが、真の少年犯罪に対する対策だと思います。またそうすることが被害者に対しての償いにもつながるものではないでしょうか。
被害者に対する問題は、その被害に対する重大性にかんがみ、国として施策を一層見直すべきであり、被害者の権利を確立する法律の成立が、各方面から要望されております。民主党では先の国会で「犯罪被害者基本法」を提出しております。これまであまりに無権利状態であった被害者の権利は法的に確立されるべきものだと思います。
この点に対しては、法務大臣はどのようにお考えでいらっしゃいますか明確にお答え下さい。(法務大臣)
少年犯罪は大人の犯罪と区別して考える必要があります。まず刑罰ではなく、少年に対する教育やその環境を整備するという福祉的措置を優先させることには大切な理由があるのです。
いじめ等により犯罪等の発生に対処するために、家庭・学校・地域が連携して、いじめ防止プログラムを設定し、いじめを容認しないという断固とした意思で真剣な取り組みをするべきだと思います。すでにスウェーデンではノルウェーの学者、ダン・オルヴェウス氏のいじめ防止の理論を参考にして、いじめに対する法律が成立していますが、この点大臣はいかがお考えですか。(法務大臣)
衆議院段階では民主党は与党案に対して20ヶ所に及ぶ修正案を出しました。参議院でも提出予定であります。それに基づき三会派与党案について少し詳しくお尋ねしたいと思います。
先ず私たちが最も問題があると思っているのは、検察官関与であります。
これまでは家庭裁判所での少年審判では審判官が少年と向き合い、できるだけ柔らかに心開かせて事情を聞くのに比べ、三会派案での検察官の関与の仕方は、事実認定手続きにおいて予断排除や証拠法則といった根本原則を無視したものであり、又、少年法の理念を損なう形で検察官の抗告受理申立を認めているものです。少年審判の場が少年を糾弾する場へと変質してしまう恐れがあります。
私たち民主党が出した修正案で示しているように、保護条件の審判に関与した裁判官以外の裁判官によって構成される家庭裁判所によって、適正な手続きに従って事実認定が行われるべきと考えます。検察官送致を決定できるのは、著しく罪質が重大で刑事処分以外の措置によっては目的を達することが困難な場合と限定しています。
又、少年は可塑性が高く、防御能力が極めて乏しいことから、検察官送致を決定するには、弁護士である付添人をつけなければならない、としています。
この点、発議者はどう考えられますか。(発議者)
二番目に、与党案では16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪を問われる場合は検察官への送致を原則とする、いわゆる「原則逆送」を導入しようとするものです。教育的措置によって少年を矯正し、再び犯罪を犯すことの無いよう防止しようという少年法の精神に反するものと考えます。少年事件についてはまず家庭裁判所がしっかりとした調査を行った上で適切な判断を下すべきと考えますが、提案者のご意見をお聞かせ下さい。(発議者)
先程「少年法を改正することで青少年犯罪が減るとお考えか」とお聞きしました。衆院の委員会審議で提出者の杉浦議員は、「すぐに減少するとは思わないが、少年の回りに警告を発するところに意味がある」と答えておられます。犯罪は減少しないだろうがそれでもいいと思っておられるのでしょうか。犯罪を減らしたい、と思っている国民の期待と不安を裏切るものではないでしょうか。(発議者)
アメリカは1970年代から厳罰化の道を選び、その間少年犯罪は減るどころか増加し続けたことは衆知の事実です。
又、10月31日の朝刊ですが、お隣の韓国では厳罰色の強い規定が適用されていて、しかも少年犯罪は増加しているそうです。昨年まで三年間、日本の大学で少年法を研究していたある学者は、「韓国でも日本でも少年事件の原因の殆どは大人たちの責任だ。日本は今の少年法でも見事に成果をあげているのにどうして大人たちは逃げて、子どもたちを罰することばかり考えるのか」といっています。
法務大臣、私たちはこれら世界の動きをしっかりと見て、教訓として選び取らなければならないと考えますが如何ですか。(法務大臣)
本来、大人が子どもに対する態度こそ、子どもの育ちの基本といえるのではないでしょうか。
子ども自身が大切にされていると実感することが、人に対する思いやり、命の尊さを自ら認識させることになると思います。思いやりを持って愛された経験がない子どもに対し、他人に思いやりを持てといっても、それは、難しいことです。
先程もふれましたが、規範を示すべき大人、特に政治家の、目を覆うような行動等が世間を騒がせたりする中で、子どもにだけ、規範意識を養わせると豪語する大人に、子どもは心を開かないでしょう。
刑法犯少年の総数そのものは、減少しているものの、その犯罪の深刻化は、刑罰問題とは切り離し、原因の分析、対策をするべきと考えます。「少年法」の対応とは別に考えるべき問題だとお思いますが、今後どのような対応を考えていらっしゃるのか、官房にお伺いいたします。(官房長官)
最後に申し上げます。私は少年非行に対して毅然とした姿勢を示し、少年が自らの行為について責任意識を持つように規範を徹底することは、大変重要であると思います。しかし、人格形成過程にある少年に対して安易な厳罰化で望むことは本当の意味での規範意識が育たないばかりか、少年の長い人生、更正の可能性と未来を奪うものであると考えます。
憲法や、こどもの権利条約、少年審判運営に関する国連査定基準規則、少年非行予防に関する国連ガイドライン等々が少年の人格とその権利を犯すことのないよう、注意深く指針を示していることを重く受け止めるべきと要望して、私の質問を終わります。
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