2000年11月8日

少年法改正案に対する参院本会議質問

日本共産党  橋本 敦


1) 〜野党抜き審議への抗議〜 

 私は、日本共産党を代表して、少年法改正案について質問します。

 はじめに、私は、衆議院において充分な審議を尽くさないまま、本法案の採決が強行されたことに対し厳しく抗議するものであります。当日の新聞には、「厳罰ありきの“拙速”審議」、「言論の府、議論尽くさず」といった大きな見出しが踊り、国民の厳しい批判が高まっています。

 少年法は、罪を犯した少年の人生のみならず、日本社会の将来にも重大な影響を及ぼすものであり、それだけに関係各層の意見を踏まえて、長期的視点に立って慎重に審議を尽くすべきは当然であります。広い国民的討論と合意が必要なこの重要法案について、まず私は、参議院における徹底審議を強く求めるものであります。

2) 〜党の基本的立場〜 

 今日、凶悪な少年犯罪が相次ぎ、多くの国民が深く憂慮し、一方、被害者からはその人権が軽視されていることに切実な訴えが出されています。

 こうしたもとでわが党は、少年法について、犯罪を犯した少年への教育的・福祉的措置を中心にした少年法本来の基本理念と目的は堅持し、一方、現行少年法が被害者に対して適正な配慮を欠く点などは当然、改善が必要だと考えます。

 また、わが党は、成人年齢を「18歳以上」に引き下げることで、少年法の適用年齢も引き下げ、選挙権の付与と一体の解決を図ることを提案しています。これは、今日の世界の大勢から見ても当然であり、若者たちに、成人としての社会的権利を付与するとともに、法的・社会的責任をはたすことを求め、明日の日本を築いてゆく役割を期待するものであります。提案者の見解を伺います。

3) 〜厳罰化には反対〜 

 さて、与党案の最大の眼目は、14歳、15歳の少年にまで刑事罰を科しうる道を開くとともに、16歳以上の少年の犯した重大な犯罪は、検察官に「原則逆送」とするなど、いわゆる厳罰化であることは明白であります。

 しかし、その厳罰化を進めたアメリカでは、80年代以降、少年犯罪は減少するどころか、殺人は人口比で2.5倍にまで増大し、韓国では、戦前の日本と同様の「検察官先審制」が採用され、少年に対する保護理念より刑事処分優先の厳罰主義のもとで、少年犯罪人数は1989年の約10万7千人から98年には14万8千人と激増しています。厳罰化により少年犯罪を防止、減少させることができるのか、提案者の明確な答弁を求めます。

 また、衆議院で参考人として意見陳述された、立命館大学の葛野尋之教授は、「教育や社会復帰を強調した少年法の保護処分を受けた場合に比べ、長期拘禁の刑罰を科された方が、他の事情を差し引いても、再犯率が高いという傾向がある」と指摘されています。

 実際に、昨年の犯罪白書によれば、再犯率は、少年院の場合は24,3%であるのに比べ、刑務所出所者は48,2%と極めて高くなっています。

 このように、単純な厳罰化では少年犯罪の抑止効果が無いばかりか、再犯の防止という社会防衛上も、逆効果であるとの指摘を、提案者はどう認識されていますか。

4) 〜原則逆送について〜 

 16歳以上の少年が、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件」は検察官に対し「原則逆送」とすることには、さらに重大な問題があります。

 現行少年法の下でも、少年の動機、犯罪の性質や情状・少年の矯正可能性などを、裁判官が個別具体的に判断して、保護処分より刑事裁判を行う必要があると判断すれば、検察官に逆送されているのです。

 にもかかわらず、敢えて重大な犯罪であることだけを理由に「原則逆送」とするならば、家庭裁判所の審判権を侵害するのみならず、家庭裁判所による事件の調査で、犯罪の背景や原因、少年を取り巻く環境などが十分配慮されなくなるなど、少年審判本来の教育的・福祉的機能の低下を招き、少年法の理念は大きく後退して、家庭裁判所は刑事裁判への「トンネル」となる重大な危惧があることを、多くの識者、実務者が厳しく指摘しています。そうならないと言える確かな保障がありますか。

5) 〜刑事罰適用年齢の引き下げについて〜 

 次に、刑事罰適用年齢の引き下げ対象である14、15歳は、言うまでもなく未だ中学生であり、憲法26条の「義務教育」の下にある少年です。そもそも、このような少年の健全な成長を図ることは、国と社会の大きな責任であります。

 従って、幼くして犯罪を犯した少年に対しては、刑事裁判によって、はやばやと、いわゆる「前科者」とするのではなく、十分な教育的配慮の下に、時間をかけて責任の重大さや被害者の痛みなどを理解させ、更正の道を歩ませることこそが必要ではありませんか。国の責任放棄は許されません。提案者と法務大臣の見解を伺います。

6) 〜検察官関与について〜

 次に検察官関与の問題であります。家庭裁判所の少年審判における事件の正確な事実認定は、被害者に事件の真相を周知する上でも、また、罪を犯した少年に、深い反省と罪の自覚、自己改革を迫る教育的出発点となる点でも、少年審判の核心であります。

 したがってわが党は、一定の重大事件で、事実認定が複雑、困難となっているような事件は、その事実認定に限って、検察官の関与を認めることは検討してよいと考えます。

 しかし、そのためには、「裁判官の予断排除」、「伝聞証拠の禁止」、ならびに必要的弁護人付添制度など、憲法第31条が要請する、適正手続きの保障が必要であります。

 国連の「少年司法運営に関する最低基準規則」でも、「少年犯罪者に対する手続は、いかなる場合にも適正手続の名の下に、刑事被告人に普遍的に適用される最低基準に従わなければならない」としているのです。

 このように、国際的にも規範化されている、この適正手続きの保障がないまま、検察官の関与を認めることは、捜査段階で警察のずさんな一方的捜査や自白強要に抗しきれない少年をより一層弱い立場に追いやることになり、その上、検察官に抗告受理の申立て権まで付与することになれば、公正な審判が守られないばかりか、えん罪の危険性も高くなる恐れがあるではありませんか。

7) 〜被害者対策の強化と今後の課題〜 

 最後に、被害者対策の改善と今後の課題について伺います。

 先日、衆議院の参考人質疑で、西鉄高速バス乗っ取り事件で母を亡くした塚本猪一郎さんは、「政府は、まず被害者を立ち直らせる十分な保護をし、さらに少年を更生・復帰させる手続きをすべきだ」「少年の本当の更正は被害者をも救うことになる」と訴え、感動をよびました。

 しかし、与党案の被害者保護対策は、審判結果等の通知、記録の閲覧・謄写、被害者の意見聴取を認めるにとどまり、極めて不十分であります。

 少年犯罪被害事件の対策は一層の充実が必要です。そのためには、捜査や審判手続の進展情況等を含めた被害者側への必要な情報の開示、被害者に対する十分な精神的ケアと経済的補償、適正な配慮の下での被害者側と加害少年の対面による加害少年の更生の促進なども実施すべきであります。提案者と法務大臣の答弁を求めます。

 少年問題は、社会を映す鏡であると言われています。少年を責める前に政治と社会に潜む悪とゆがみを正す責任を我々は忘れることは許されません。

 わが党は、少年の非行や犯罪をなくすために、受験競争から子供達を解放し、子供の成長と発達を中心においたゆとりある教育への抜本的改革、社会、政治、経済の分野における腐敗をなくし、道義ある社会をめざすこと、子供達を有害な情報から守るため社会の自主的ルールを作ることが重要であると呼びかけています。

 今、21世紀に向かう我が国社会の民主的発展と、正しい理念に基ずく、青少年の健全な育成を展望する高い視野に立って、少年問題は、法による厳罰主義でこと足りるのか、それより政治と社会の責任をどう果たしてゆくのか、国民的課題であるこの根本問題について法務大臣の所見を伺います。

 元最高裁判事でわが国、刑法学会の重鎮である団藤重光教授は、「21世紀はすぐそこまで来ている。次の世紀を担う子供達をどう育てていくのかを考えなければならない。政治家は、多方面の専門家の意見に耳を傾け、未来の理想を考えるべき時なのです。社会的な調査もきちんとやらず、近視眼的な視野、見識で少年法の改正を強行するとすれば、まさしく次代に恥ずべき『世紀の恥辱』と言わなければならない。」と述べられています。

 まことに心すべき至言ではありませんか。

 国民の期待に応え、深い充実した慎重な審議を行うことを、重ねて強く要望して私の質問を終わります。

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