2000年11月8日

参議院代表質問(少年法)

社会民主党 福島 瑞穂


私は、社会民主党・護憲連合を代表して、ただいま議題となりました少年法等の一部を改正する法律案について、質問をいたします。

1.まず、そもそも少年法改正をするための立法事実があるのでしょうか。

少年犯罪の増加、凶悪化、低年齢化が言われています。

しかし、これは、全く事実に反しています。

戦後の刑法犯の少年検挙人員と人口比の増減を見ても、少年犯罪の数は、1983年頃の戦後第三のピークの時から徐々に減少傾向を示しており、1996年からあがり始めていますが、それでも現在は第三のピーク時よりまだ少ない状態です。

また、統計上、凶悪化・低年齢化はありません。昨年の少年犯罪の発生件数は、一昨年と比べて、6.3%減少しました。凶悪犯罪も、30年前に比べて約7割も減っています。

立法事実がないのですから、改正の根拠はありません。今回の改正案は、最近発生した少年の残虐犯罪に便乗し、世論を誘導するものではないでしょうか。

2.つぎに、今回の改正、少年法の厳罰化で、はたして少年犯罪が減るのでしょうか。

衆議院の法務委員会において、「犯罪抑止効果を期待して法律改正をするのであれば、根拠となるデータはあるのか」という質問に対して、法務大臣は、「総合的なしっかりした調査の結果、何をやればどういう効果がある、というデータはない」と答弁をされました。

少年法改正によって、犯罪が抑止される、減るということは何ら立証されていません。

韓国では、戦前の日本で施行された旧少年法の影響を受けた、厳罰色の濃い規定が今も適用されていますが、少年犯罪は増加傾向にあります。アメリカもドイツも少年法厳罰化のなかでむしろ少年犯罪は増加し、少年法の厳罰化によって少年犯罪を抑止できないことは、諸外国の例がまさに示しています。にもかかわらず、なぜ日本で今の時期に少年法の厳罰化なのでしょうか。

3.また、「規範意識の強化」ということも、立法理由にあげられることがあります。
規範意識は、厳罰化しなければ生まれないものなのでしょうか。

4.今回の少年法改正案は、立法の根拠となる立法事実もなく、犯罪の抑止力も期待できず、さらに、少年法の目的である「少年の健全育成を期し、非行のある少年に対して、性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行なう」との少年法一条との法的整合性も全くない、百害あって一利なしのものです。

その理由として、まず、16歳から14歳への刑事処罰年齢の引き下げについて伺います。

14歳といえば、義務教育を受ける年齢です。義務教育を受けるべき子どもを刑務所に送って、どうするのですか。子どもの教育を受ける権利はどうなるのでしょうか。

改正案は、刑務所への収容が決まった少年も、義務教育年齢の間は、少年院におくことができるようにしています。

しかし、その場合、少年の法的な地位・権利義務は受刑者のそれになるのでしょうか、それとも少年院在院者のそれになるのでしょうか。

それに、少年は義務教育年齢を過ぎたら、今度は少年院から刑務所に送られるのでしょうか。その少年への教育・更正プログラムはどうなるのでしょうか。

全く問題意識のない改正案ではないでしょうか。

14歳引き下げは、義務教育の放棄であり、少年院に入れる事も大きな混乱を生みます。

少年達が残虐に見えるのは未熟なためです。刑務所は、懲役を課すところであり、14歳15歳の少年を刑務所に入れても、心の発達は遂げられません。

なぜ年齢の引き下げなのでしょうか。

5.次に、原則逆送規定についてお聞きします。

現行法は家裁が「刑事処分が相当」と判断すれば逆送できる仕組みを取っています。
今、なぜ原則と例外を逆転しなければならないのですか。

全く理由がありません。

原則逆送を採用すると、いわゆる犯罪少年は成人以上の不利益な手続きを強制される事になります。

家裁送致後は、検察官立会いのもとで、原則逆送を前提に審判がおこなわれ、その後には、成人と同様の刑事裁判手続きが待っています。成人であれば一回ですむところを、少年は家庭裁判所の審判で徹底的な審議が行われ、もう一度成人と同様の刑事裁判を受けなくてはなりません。

原則逆送の考えは、少年法一条を著しく変容させるものです。少年法一条との整合性はあるのでしょうか。

9月7日に発表された「検察統計年報」によれば、昨年の少年事件数は減少し、逆送事件も減少しています。この事実と原則逆送はどう結びつくのですか。

原則逆送を認めなければ社会防衛ができないほど凶悪な少年犯罪が多発し、犯罪少年が保護処分では矯正不可能なまでに人格を荒廃させているのかどうか、感情論ではなく客観的な資料に基づいて立法事実の有無を検証すべきです。

6.次に、少年審判への検察官の関与についてお聞きします。

これは、現在の少年審判手続に、構造の全く異なる検察官を関与させるもので、木に竹を継ぐものであり、少年法の基本構造を変更するもので、許されないと考えますが、いかがお考えでしょうか。

7.私たちは、社会の中から犯罪を減らしたい、と思っています。その為には、犯罪を行なった人に、きちんと変わってもらう必要があります。少年の場合は、特にそうでしょう。一生閉じ込めておく事はできないのだから、きちんと変わって出てきてもらう必要があります。

そのためにも、被害者を真正面にすえて、加害少年が被害者と向き合い、事件の重大性や影響を少年が直接自分で認識し、受け止め、真摯な謝罪・真の更正がなされるシステムが必要なのではないでしょうか。

少年が被害者と向き合い、被害者から見た事件の重大性や影響を直接自分の目と耳で受け止めるとき、心からの謝罪や自責の念が生まれてきます。被害者が、少年の実像を知り、真摯な謝罪を受けることは、被害者にとっても救いになることもあります。

実際のところ日本では、加害少年が被害者の声を直接聞く事はごくまれにしかありません。これに対して世界各国では、被害者と加害者が直接向き合って対話するプログラムが急速に広がっています。

このような考え方、リストラティブジャスティス、いわゆる回復的司法によって、犯罪を抑止しようというのが、世界の趨勢です。

2000年4月、国連の犯罪防止会議においても、リストラティブジャスティスをもっと広めようという決議がなされました。

官房長官、及び法務大臣は、リストラティブジャスティスについて、どのように検討していらっしゃるでしょうか。お聞かせください。

8.衆議院の法務委員会で、少年院の子ども120名に篤志面接委員として会ってきた参考人は、「子どもが変わろうとするのは、大人が自分のことを考えてくれると思えるときである」と述べています。その通りです。

立法者が、子どもたちを悪い子どもといい子どもの2つに分け、悪い子どもは救いがないので切り捨てていくと宣言をしているのが、今回の少年法改正案です。今回の少年法改正案は、立法理由のない大人のヒステリーであり、立法者たちの子どもたちへの絶縁状です。みなさんの多くは、お父さん、お母さんでもあるでしょう。子どもたちと接すると子どもたちはゆっくりとしか変われないこと、すべての子どもが愛されたい、認められたい、大切に扱って欲しいと思っていることが本当におわかりだと思います。改正案は、子どもがゆっくり変わっていくことを許さない愛のない改正案です。

改正案が仮に成立すれば、少年犯罪が増加していくことは火を見るよりも明らかであることを訴え、私の質問を終わります。

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