10月24日・25日委員会傍聴メモ
野党も加わった審議となり、24日に野党6名(民主の佐々木・平岡・肥田、保守の藤岡、社民党の保坂、共産党の木島の各議員)による質疑が午前午後6時間行われ、25日に野党4名(民主の野田・山内・水島・日野)による質疑が午前午後3時間行われてかなりの追及がなされ、問題点が浮き彫りにされてきたと思います。
なお民主党は24日の終わりに修正案の趣旨説明をし、25日には民主党の提案者も前の席に並びました。傍聴席は両日ともほぼ満席でした。
佐々木議員は、
1.政府提案として出さなかったのはなぜか、責任回避ではないか、
2.法務大臣が憲法や教育基本法の見直しに言及したが、どこを変えるのか、
3.14才について緊急性はあるのか、
4.与党案で犯罪抑止力になるのか(24日付毎日新聞のアメリカの裁判官ら来日の記事「少年犯罪厳罰化に疑問あり」を紹介)と追及しました。
1.について保岡法務大臣は、「5月の国会での決議に基づき与党が(前の政府提案を採り入れて)法案化していただいたことを評価している、政府提案でやらねばならないわけではない」というのみ。
2.について保岡「閣僚としてでなく一政治家として答えた、社会規範が緩んでいる、どこを変えるかはこれから議論されていくだろう」と逃げの一手。佐々木「憲法や教育基本法の理念が生かされる教育であれば悪い風潮はおきなかっただろう」とダメ押し。
3.について保岡「年少少年の凶悪重大な事件が続いている」、佐々木「前から低年齢の事件あったではないか」、保岡「与党の提案者にきいていただくのが筋」と逃げる。
4.について麻生「少年犯罪の背景は単純ではないが、重大な一助となる、普段の生活態度を改めたら直ちに成績があがるわけでない、今までと状況が違うということを分からせる必要がある」
佐々木「子どもは悪いと分かってやっている、大人でもそうではないか、子どもたちは大変不幸な時代に生きている、モラルハザードの時代、大人も異常犯罪、政治家もそうだ(私の党でも残念ながらあったが)、まず大人が手本を示さねば、法律改正したから見せしめになるとは思えない」と熱を込めて述べた。
次いで佐々木議員は現職裁判官である井垣判事の「法学セミナー」の論文や、被害者代理人の活動をしている児玉弁護士の「自由と正義」の論文を引用して、「提案者はどう考えるか」と質問し、谷垣議員は「井垣論文は論理の飛躍があるのではないか、原則逆送と言っても例外があり、調査は充分する、また原則逆送しないから法令違反に当たるとは考えにくい」と答弁。(児玉論文については言及せず)
佐々木「井垣判事を参考人に呼びたいがどうか」安倍家庭局長「私から言うことは差し控えさせていただきたい」
平岡議員は「与党案の中で被害者への配慮、事後救済(再審にあたる規定)の部分は評価できるが、年齢引き下げ、原則逆送、検察官関与は慎重にすべき」との前提で、「14・15才は自分のやったことをどう説明していいのか分からない年齢で、自分を守りきれない、その点をどう配慮するかが大切、与党案にはそこを補う発想がない」と指摘し、また「原則逆送となれば家裁の判断権を奪ってしまう、与党の目的は、結局公開法廷にすることを意図しているようだが、それは少年に辛い立場に立たせるのではないか」と追及しました。
ただ民主党の修正案との関係で与党案批判も不徹底になりました。特に民主党案は14才引き下げを絞りつつも認めており、その場合の収容先を「少年院では目的が混乱する」との理由で少年刑務所にしています。そのため「14才にとってどちらがいいか」というおかしなやりとりになってしまいました。
なお提案者の杉浦議員が10日の委員会で佐賀バスジャック事件の家裁決定(医療少年院送致)を批判して抗告受理申立ができるような発言をしたことについて,追及したところ、杉浦議員は「舌足らずであった、処分の不当は申立理由にはならない」としつつ「ただ精神病罹患の可能性ということで医療少年院送致にしているので、決定に影響を及ぼす重大な事実誤認ではないか」と、これまた問題答弁をしました。(この点は25日の山内議員の質問で、佐賀バスジャック事件については申立できない、ということで一応決着がつきました。)
肥田議員は、子ども国会での発言を紹介しながら、少年法の問題を考えるに当たっては子ども観が重要であり「罪を犯した子どもでも大人が援助すれば罪を自覚してくりかえさない子どもになる、という観点に立ちたい」と述べ、権利条約やリャドガイドラインの全面的かつ対等なパートナーという考え方を紹介し、大臣と提案者の子ども観を質ねました。これに対しては保岡「いずれ国民として国家社会を支えていく、保護だけでなく責任を自覚させることが重要」と述べ、また麻生「社会の一員、リャド云々も基本的なところは同じと思う、犯罪は比率からして減っておらず増えている」と発言。
(リャドガイドラインは子どもを社会の一員として尊重することが犯罪の予防にもなると言っているので麻生答弁は見当違いであり、また犯罪は増えているとの点も何をさすのか問題です。)
また肥田「犯罪は人格を無視された長い時間の積み重ねの結果であり、処罰でよくなる根拠があるなら示してほしい」麻生「これが通って直ちに犯罪が減るということではないが、すぐプツンという程度のことは抑止できるのではないか」
肥田「裁定合議は大勢の大人に囲まれ誰の顔を見て発言すればよいか、威嚇的な雰囲気で内省を促せられるのか」。麻生「顔色見て選択もできるプラスもある」
肥田「検察官と対決すると意見表明ができず真実が見えなくなる」、麻生「弁護士つけるとチエつける、職業として」、肥田「すべての段階で弁護士を付けてはどうか」谷垣「まだ議論が煮詰まっていない」、肥田「大人同士の代理戦争になるのが心配」杉浦「子どもの前で検察官と弁護士がやりあうのは避けるべき、やるなら別室で、前に自分が付添人をやったとき裁判官から『ちょって席を外してくれ』と言われたこともある」 その他に「調査官をもっと増やすべき、観護措置期間8週間というのは子どもにとっては長いのではないか、総合的な子ども庁がほしい」など発言し、被害者配慮規定についても質問しました。
藤島議員は、野党とはいえ「改正」に積極的賛成の立場から「なぜ適用上限を18才にしなかったのか、観護措置期間が12週間でたりるのか、被害者死亡の場合は(原則でなく)必要的逆送にすべきではないか、報道制限なくすことによって犯罪抑止効果が上がるのではないか」などの質問が続きました。なお「被害者死亡事件で検察官が出席を求めたのに家裁が断ることはないか」と質問したのに対して杉浦議員から「検察官からの申し出あればよもや断ることないでしょうね、もしあるなら出席できる旨明記しなければ、と言ったところ(最高裁は)断ることないとは言えないが、まず考えられないでしょうという趣旨の暗黙の了解があった」と注目すべき発言がありました。
保坂議員は、まず「残虐で特異なケースが増えているのか」と追及。保岡「世間の耳目を集める凶悪重大な事件が続いている。それが年少少年に及んでいる」保坂「1960年代の首切り事件や切り裂きジャック事件など、かつてもあったのではないか」などと追及しました。
次に保坂「規範意識というのは何か」保岡「社会の一員として悪いことをすれば一定の処罰を受ける、ということだ」保坂「それを憲法や教育基本法が阻害しているのか」保岡「阻害しているとは思わない」保坂「10日の発言は適切な発言だったと思うか、どの条項がひっかかるのか」と追及しました。逃げの姿勢がありありでした。
被害者への情報開示について、どこまで進めているのか、質問しました。「被害者と加害者の接触について提案者はどう考えるか」漆原「日弁連の提案中にもあり我々も検討した、そういう方向に向かうと思うが今回は見送った」
また「少年院収容受刑者」について「一体どういう存在なのか」と追及しました。漆原議員は「川越少年刑務所を視察し、出所後のための職業訓練の様子を見て、罰はどうなっているのか、という声も出たくらいだった、少年院からの移行も川越への流れのようならばいけるのではないか」
保坂「日本の少年院の果たしてきた役割をどう考えているのか」鶴田矯正局長「再犯率の評価はともかくとして、矯正教育を任務としてやってきた」(提案者が少年院の再犯率をどう評価しているのか、については質問なし)
保坂「与党案は子どもの権利条約との関係で問題はないか、公明党内ではいろいろ議論があったのではないか」漆原「いろいろ議論した、条約には反しないとの党内合意になっている、検察官が入ってもすぐになごやかでなくなる、ということはない」(漆原議員は総選挙中地元の新聞で『検察官立会いには反対』と発言していたが、追及なし)
木島議員は、まず法務大臣改憲発言を取り上げ「どこを変えるべきとの考えか」保岡「具体的な改正ではない」木島「少年法の問題としても重要だ、戦後少年法は憲法に基づく改革としてなされたもので、少年法理念の後退は憲法理念の後退だ。憲法13条は被害者の人権尊重のため、少年の更生のため、犯罪をなくしていくため、子どもの基本的人権を尊重することが重要だ」と議論を展開し、「閣僚としてだけでなく一政治家としての発言であっても、改憲発言は問題だ」と追及しました。
次いで被害者に対する配慮がないのが少年法の欠陥である、として現行の取り扱いの現状について質問し、「記録の閲覧の目的の、『その他の正当な目的』の中に『事実関係を知りたい』ということも含むか」と尋ね、杉浦「含まれる」との注目すべき回答がありました。被害者と加害者の接触についても保坂議員と同様の考えを強調しました。
14才引き下げについては、「保護によって再犯を抑え平和を確保するのが重要」との前提で、最近法務省が鑑別所入所中の少年へのアンケート(天井から非行したのか、との問いに87%が否定)を引用して「一般的抑止力はないのではないか」と追及し、鶴田矯正局長が「処遇のための内部調査としてやった、そのまま受け止めることはできない」と答弁し「提案者に気を遣うことはない、厳罰で抑止力にはならない、むしろ害悪になることを論証することが重要である」として、「14才引き下げは義務教育の放棄であり、少年院に入れることも大きな混乱を生むだろう」また小此木啓吾教授の論文(法と民主主義)の「この年代は発達的にも自己破壊的なところがあり人の生死に現実感を持っていない、いわゆる少年兵はこの年齢で日本の戦前の航空兵もそうだった」を引用して、厳罰の問題性を強く指摘しました。
そして少年法制定時に14・15才に逆送を認めなかった立法趣旨についても法務省尋ね(古田刑事局長は「調べたが分からない」と答弁)、守屋克彦元裁判官の論文(法と民主主義)を挙げ、厳罰化が旧少年法よりも後退である、と強調しました。
また原則逆送について杉浦「原則と例外を逆転させるもの」との答弁をふまえて、従来の逆送状況を家庭局長に説明させ、田宮教授と広瀬判事の共著である少年法の注釈書の記載を運用しながら、「家裁は深い調査によって逆送するかどうかを決めており、逆送率は適正である」と強調しました。(安倍局長は何も発言せず)
野田議員と山内議員は前日の平岡議員と同様に、与党案を追及しながらも民主党案の趣旨説明も兼ねたため、追及不十分な点がありました。
野田議員と答弁の佐々木議員は、与党案のうち被害者配慮・事後救済・保護者責任の明確化については民主党としても評価できるが、被害者配慮としてはまだ不十分であることを強調しました。
原則逆送については、大阪弁護士会でまとめた資料を紹介しながら「これまでの家裁の判断に誤りがあったとの認識が提案者にあるようだが、これまでの原則と例外を逆転させるほどの理由があるとは思われない」と追及しました。麻生・杉浦議員とも「運用がおかしかったとはいわない」が「逆送率が低い(麻生)」「逆送すれば公開裁判になる、保護処分が相当ならまた家裁に戻せばよい、警察検察も逆送前提にしっかり捜査をするようになるだろう(杉浦)」と言うのみ。家庭局長には回答を求めませんでした。現在警察検察が捜査を手抜きしているとの批判について、法務省刑事局長にも回答を求めませんでした。
民主党案の事実認定手続について紹介しながら与党案を批判しましたが、保岡「やっぱり与党案がよい、民主党案では勾留も長期になる」等と答弁。
山内議員は、原則逆送になる罪について、具体的に質問しました。同意堕胎致死罪、自殺関与罪、同意殺人罪などを挙げ、谷垣答弁があり後に補正するなど、与党も議論を詰めきっていないようでした。
「現在の審判廷の構造で検察官が出席したら、なごやかな雰囲気が可能か」との問いに麻生「建物などハード面の問題は残る」と回答。
「否認事件でなくても関与できるということになっていますね、量刑についてにらみをきかす、ということですか」との問いに、谷垣「協力者であってにらみではない」。(「否認事件でなくても関与できる」という点を追及すべきだが、それはなし)
次に抗告受理申立における「法令違反」について質問しました。谷垣「実体法の適用の誤り、審判手続の違反(検察官が関与したのに付き添い人を付けない等)である」と回答。「原則逆送で法令違反ということはないのか」谷垣「そのことで要件にあたる、というわけではない」(杉浦に)「10日の発言に釈明する点はあるか」杉浦「事実誤認ではないかと個人的には思っているが、谷垣発言のとおり」「では医療少年院送致に不満でも抗告受理申立はないということでよいか」杉浦「一政治家として私見を述べて注意された」。
水島議員は精神科医として少年犯罪に見識があり(著書に「親子不全=キレない子どもの育て方」(講談社新書)もある)、この日は20分と短時間ながら、本質的な問題点を追及しました。(本来の所属は厚生委員会)
まず「凶悪犯を含め少年犯罪は格段に現象しているが、96年から少しずつ増えている、その原因は何か」。保岡答弁についてさらに具体的に質問していくと答えられず。 次に「犯罪抑止効果を期待するのか」保岡「要素のひとつになっている」「一定の効果を期待して法律改正をするのであれば、根拠となるデータはあるのか」
これに対する答弁は26日朝日新聞の記事より引用しますが「『まあ
データと言いますが そういうものを何か 』法相はしばらく口ごもった後、『総合的、体系的なしっかりした調査の結果、何をやればどういう効果がある、というデータはない』と回答した。そして、『ただ、少年の矯正施設でいろんな工夫をしている。工夫された後の再犯率、再入所率などの調査で、前と後とでは随分違う結果になったというデータはある』と続けた」とリアルに伝えています。水島議員は「今のを聞くと、結局抑止効果については根拠もデータもお持ちでないということが私にはハッキリしました」と結びました。(保岡発言の最後は少年院の再犯率が刑務所より低い、という数字しかないので、刑罰の抑止効果の根拠データではないこと明らかです。)
さらに水島議員は「ふつうの子どもの心が病んできている、麻生議員はふつうの子とそでない子を分けて議論しているが、そういう認識をお持ちの方が立法に当たっていることは心配である」また「大人の経験を教えることも大切だが、子どもの声に耳を傾けることこそ重要である」と強調しました。
日野議員は、教育刑と応報刑の関係にふれなから「犯罪に対して応報という考えは分かるが、我々がそれに流されていいのだろうか、法律の精神を教育から応報に大きく変えることになる、少年の現状や大人社会の現状をきちんと踏まえ、法制審議会等の意見を聴いて、政府提案として出すべき。今までの家裁はかなりいい仕事をしてきた、科学的分析に従って家裁が決めることが合理的、この改正で犯罪が減少するかは否定的意見が殆どではないか」と強調しました。マスコミの影響についても指摘しました。
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