10月13日委員会傍聴メモ
法案審議の2日目として岩井宣子氏(専修大教授)・千葉紘子氏(歌手・篤志面接委員)・瀬川晃氏(同志社大教授)の3名が参考人として呼ばれました。いずれも2年前に法制審議会少年法部会の委員として、この春廃案になった政府案のもとを作ったメンバーです。与党案についても結論的に「反対」と言いませんでしたが、部分的には批判的な意見も述べ、特に、「この改正で犯罪防止の抑止効果があるか」との質問に対して一様に懐疑的な意見を述べ、このことが新聞各紙にも報道されました。
岩井氏
年齢引き下げについて。「14歳・15歳は刑事責任年齢に達したばかりで、保護教育で対応をすべき」と考えていたが、「犯罪の低年齢化が進んでいるし、『処罰されないからいいんだ』と考えている少年がいる、とすればまずいのでやむを得ない。家裁の裁量が大切。原則逆送について。逆送を増やさねば、ということはない。選択の幅、ということになろう。(?)
早期発見早期治療ということで後々の重大犯罪を防ぐ。温かい対応が実績を挙げている、という自信を現場が持っている。
(死亡に匹敵する障害も含めるべきではないか、という質問に対して)そういうことをする子どもでもいろんな病理を持っている。事件の大きさというより家裁の調査、判断で決めるべき。
犯罪抑止力について。少年非行には社会的背景が重要、少年法をいじることだけで解決を図るのは無理。
(若い人に厳しい意見が多いのでは、との質問に対して)一生懸命勉強して非行問題にかかわりたい、という学生もいる。特に、強硬姿勢ということはない。
事実認定に関する法制審の案(政府案)との違いについて。抗告権は自分はなくてもいいと思うので、これで良い。拘束期間の短縮や検察官関与要件の縮小には疑問。
千葉氏
少年院の子どもについて。篤志面接委員として1,200名前後と会ってきた。子どもが変わろうとするのは、「大人が自分のことを考えてくれる」と思えるとき。殆どの子どもは良くなって出ていっている、ということを知ってほしい。ドイツでは7ないし8割が少年院に戻ってくるそうだが、日本では再犯は24%で、少年に戻るのはさらに少ない。少年非行は加害者でありながらも被害者ということが多い。
年齢引き下げについて。自己中心主義や規範意識の衰退は大人社会の反映。大人が変わらなければ子どもは変わらない。しかしそれを待ってはいられない。少年の凶悪犯罪が増えていることを考えるとやむを得ない。
(少年刑務所について問われて)少年刑務所はやはり懲役作業の場。
犯罪抑止力について。簡単にはいかない。多少なりとも、まずい、ということに繋がるのでは、と思っている。
瀬川氏
戦後少年犯罪は第4の波に入った。衝動的いきなり型の増加、遊ぶ金欲しさ、ゲーム感覚、現実との混同、弱者標的集団犯罪、模倣犯罪(マスコミの影響もあるが)。原因に確たるものはない、動機が分かりにくい。改正の直接の契機は、審判への批判非と被害者の権利運動の高まり。
年齢引き下げについて。安易な動機で犯行に及ぶ少年がいるとすれば、引き下げが必要ということを理解できるが、私自身としては、矯正実務家などの意見を聴いて、もう少し慎重に議論するべきである、と思う。
モラルパニックの状態にあるが、冷静な議論が必要だ。審判方式についても、心理学者や実務家の意見を聴いたほうがいいのではないか。検察官関与についても、検察官の行動姿勢が成人と異なるべき。そういう意味でも現場の意見をもっと聴くべき。
改正法案のうちで事実認定に関する部分は、法制審の案(政府案)とは違うが、学会などの批判で訂正したことは良いこと。
犯罪抑止力について。一部的には肯定できるが、全面的には肯定できない。
まとめ
3氏の基調は、家裁や少年院の保護教育的機能を肯定的に評価し、刑事処罰の抑止力について懐疑的であり、特に瀬川氏は矯正関係者や心理学者などもっと現場の関係者の意見を聴くべきだ、と述べていて、与党議員としても(法制審議会の委員ということでまず呼んではみたものの)耳に心地よい参考人ではなかったでしょう。
残念ながら岩井氏・千葉氏は年齢引き下げもやむなし、と述べていましたが、その前提に「犯罪の低年齢化が進んでいるし、『処罰されないからいいんだ』と考えている少年がいる」と言うような不正確な認識ないし誤解があるようで、この点がもっときちんと議論されるべきことをあらためて感じました。
また岩井氏は、年齢引き下げについて「裁量の幅を広げたという意味がある」という理由で肯定しつつ、裁量を狭める原則逆送にハッキリ反対しないのも、研究者の意見として理解しがたいものがありました。
なお審判手続きに関する部分では、3氏とも法制審委員だった立場から肯定的でありましたが、この点でも瀬川氏が慎重な検討を求めました。
被害者への配慮規定については各々の経験から必要性を述べました。
このほか参考人の意見ではなく、質問者議員の発言の中で注目すべきものがありました。無所属の土屋品子議員は、総選挙の公約で「少年法改正」を訴えて母親層の支持を受けたとのことで、当選直後にアンケートをとったところ8割が年齢引き下げに賛成であった、とのことですが、その原因として「凶悪事件が続いたこと」に加えて「マスコミ報道によって恐怖感を強めた、ということもある」と述べたのです。
あまりに過剰なマスコミ報道の影響を、かなりの議員も気づいているのではないか、と思われる一場面でした。
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