あまりにいい加減な「審議」

 前の席に提出者(議員立法の場合に趣旨を説明する)として杉浦(自)・漆原・高木(公)・松浪(保)等の議員や保岡法務大臣・上田次官・古田刑事局長・鶴田矯正局長・馬場保護局長、最高裁から安倍家庭局長などの顔が見える。傍聴席は満席(ほとんど市民)。

 2時間半にわたって馴れ合い質疑が続いた。

「低年齢化」またまた犯罪統計を恣意的に利用 

 少年犯罪が長期的に凶悪化傾向にはないことは客観的に明らかにされています。今日の発言でもそこまでは誰も言えませんでした。せめて、ということでしょうか、14才への引き下げの関係で「14・15才(いわゆる年少少年)の凶悪化が進んでいる」と何人もが繰り返しました。しかしその統計根拠と言えば「刑法犯は平成4年から、そのうち凶悪犯は平成7年から増加傾向にある」というもの。なぜ平成4年や平成7年をもってくるのでしょうか。年少少年の刑法犯は昭和58年をピークに漸減しており、平成7年から漸増しているものの昭和58年をはるかに下回っています。凶悪犯についても戦後長期的に漸減していて、例えば昭和40年の3分の1です。そのほか「平成11年は平成10年に比べて年少少年の凶悪犯が増えた」とも言ったり、統計利用があまりに部分的御都合的です。

「規範意識のため憲法・教育基本法の改正が必要」 

 保岡法相は「問題は少年法だけで解消するものではない、社会全体の規範意識を高めるためには憲法・教育基本法の改正が必要だ」と、とんでもないことまで言いだしました。新聞各紙もこればかりは驚いたようで11日の朝刊で報道しましたが、青少年の管理統制を通じて国民全体の管理統制をねらう自民党の本心が出たものでしょう。

「すぐには減少しない」と言いながら「厳罰化が必要」 

 河村議員が「厳罰化しても犯罪は減少しない、という指摘がある、自分もすぐ減少するとは思わないが規範意識のために必要だと思うがどうか」と問えば、杉浦議員が「そのとおり、凶悪少年の周りの少年に警告を発するところに意味がある」と答えます。つまるところ与党も「犯罪は減少しないだろうが、それでもいい」と思っているのです。「犯罪を減らしたい」と思っている国民の期待と不安を利用して、かえって期待を無視し裏切るものではないでしょうか。

かえって犯罪を増やした「アメリカの教訓」も都合よく無視 

 アメリカが1970年代から厳罰化の道を走り出したこと、その間少年犯罪は減るどころか増加し続けたこと、ただ90年代半ばから減少し始めたことは知られています。90年代半ばからの減少の原因は銃の規制や街頭パトロールの強化、景気上昇による失業率低下というのが定説ですが、厳罰化論者たる横内議員(自)は何とかしてこれをも厳罰化の成果と理屈づけたくて「そのころから特に厳罰化が進んだんですね」との珍説を披露し、専門家の筈の法務省関係者は誰も訂正しませんでした。

「家裁の処分は甘い」と言われて反論もしない家庭局長 

 杉浦議員は「これまで逆送が少なすぎる、改正すれば家裁の運用は変わり、国民感情に配慮した決定をするようになるだろう」と繰り返し発言しました。家庭局長は何も発言を求めず、あとで丸谷(公明)議員から「なぜ逆送率が低いのか」と問われて「傷害致死では共犯多く役割が異なる」とか「少年院も足せばかなりは収容されている」等と述べる程度でした。先日少年院送致決定のあった岡山や佐賀のケースのように、現場で取り組んでいる裁判官の努力を擁護する姿勢は感じられませんでした。

少年院をおだてつつ侮辱されて反論もしない矯正局長 

 与党は「中学生も刑務所に入れるのか」という批判をかわすために、初めは少年院、義務教育を終わったら少年刑務所に移すことにしました。「義務教育はちゃんとできるのか」という馴れ合い質問に「少年院でちゃんと対応できる、心配はいらない」と答弁します。それならなぜ少年院を信頼しないのでしょう。少年院は授業だけすればよい、ということでしょうか。「家裁の処分は甘い」というのも実は「少年院教育は甘い」というのと同じことで、少年の立ち直りのために頑張っている少年院の現場を侮辱しているのです。少年院退院者の再犯率が低いことについて、誰からも言及がありませんでした。矯正局長からさえも、です。

検察官関与、拘束期間延長についてもおざなり質疑、草加事件も適当に無視 

 検察官関与の必要性をいうために、いい加減な発言がとびかいました。

 「家裁は少年の言い分だけで決めている、という疑念が被害者にはある」との発言について、捜査資料は全部証拠になっていることの説明を誰も(家庭局長も)しませんでした。

 「少年にとって一方的に不利になる、と一部弁護士や研究者が行っているがどうか」との問いに対して(家庭局長でなく)法務省刑事局長は「記録を全部読んでも裁判官はそれで心証を形成することはない」と断言し、刑事裁判の原則である予断排除原則を無視した説明をしました。

 草加事件についても、事実認定が問題になったケースのひとつとして紹介されましたが、検察官が証拠隠しをしたことは(予想どおりでしたが)誰も触れませんでした。

 質問者の中には、家裁見学をしたことが言いたかったのか「審判廷を見ただけで、事実認定に困難を生ずると思った」という滑稽な発言もありました。

 「拘束期間を延長しないで釈放するとどういう支障があるのか」という質問に、家庭局長は「罪証隠滅・逃亡・自殺・社会不安」と述べました。「罪証隠滅・逃亡・自殺」の実例がどれだけあるのか問いも答えもありません。事実関係を争うケースで「社会不安」まで理由に挙げるとは、無罪推定の原則をどう考えているのか呆れました。

まともな質問にも聞き流し 

 まともな質問もいくつかはありました。

 横内議員(自)は「少年の未熟性からして捜査は十分慎重にする必要がある、マニュアルなど具体的な配慮はどうか」と質問しましたが、法務省刑事局長は「マニュアルまではない、できるだけ話しやすい検察官とかを考えている」程度の答えで、それ以上の質問はありませんでした。

 斉藤議員(公)は「家裁には優秀な人材がいない、という指摘があるが」と質問しましたが、家庭局長は「家事事件が複雑化しているが少年事件も充実整備に努めている」と答えただけなので、質問者が再度「決意を表明してほしい」と言ったところ「法案成立のあかつきには諸般の整備に努めたい」との答え。改正の如何にかかわらず「優秀な人材を配置しているし今後も一層充実する」というのが模範答弁ではないのか、と耳を疑いました。質問者もあきれたのか、最後に「優秀な人材がいない、ということのないようにしてほしい」と締めくくりました。

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