少年法改正

与党案には疑義がある



 与党三党による少年法の改正内容が固まった。

 刑罰を科す年齢の下限を16歳から14歳に引き下げる▽16歳以上の少年が故意で人を死亡させた場合、原則として検察官に送致(逆送)して刑事裁判にかける▽一部の事件について少年審判への検察官の関与を認め、家裁の判断に不服があれば、高裁に上訴の受理を申し立てられるようにする、といった点が主な柱になっている。

 事実認定手続きが厳格さを欠き、犯罪被害者への配慮がすっぽり抜け落ちているなど、現行法に問題があるのは確かだ。私たちはそうした個所の手直しの必要性を指摘する一方、安易な厳罰化に走らず、地に足のついた議論をするよう繰り返し求めてきた。だが、期待は裏切られたというほかない。

 かぎを握ってきた公明党の動きを振り返ると、政権枠組みの維持を最優先に考える幹部が党内の慎重論を抑え込み自民・保守両首の言い分に歩調を合わせた感が強い。社会の根幹を形づくる基本法が、本質を十分論議されず、ただ政治の駆け引きの道具に使われたとすれば嘆かわしい限りだ。

 そもそも今回の改正論議は6月の総選挙前ににわかに持ち上がった。選挙受けだけを狙った、打算的な観点から終始進められてきたといっても過言ではない。この間、少年事件の動向や内容を丹念に分析することも、非行問題に取り組んでいる現場の人々の話をじっくり聞くことも、ほとんどなされなかった。まとまった案が理念に欠け、矛盾をはらむのは、むしろ当然というべきだろう。

 中でも最大の問題は「原則逆送」である。確かに、逆送されるのは傷害致死事件で約10%、殺人事件でも20%前後という運用実態に疑問を持つ人もいるかもしれない.

 しかし、どんなケースが保護処分として処理されているのか、少年の更生や社会の安定にいかなる効果もたらし、あるいは逆に問題を引き起こしているのか。それらを十分検討したうえでの提案ならともかく、「現行法は甘い」という安直な先入額から導き出された結論に、どれほどの客観的な説得力あろうか。法制審議会などを素通りして行き急ぐ議員立法の危うさが感じられてならない。

 例えば岡山県の少年によるバット殴打事件を冷静に考えてほしい。日ごろ受けていた嫌がらせから感情を爆発させ、相手の後輩を襲った後、「自分が殺人犯になり母親がつらい思いをするのは耐えられない」との理由で、母親を殺害した事件である。

 家裁の裁判官は未熟さゆえの犯行ととらえ、特別少年院で長期の専門教育を受けるよう命じた。妥当な判断あろう。だが与党案によれば、この少年も刑事裁判に回され、十分な教育の場を与えられないまま、刑務所で懲役労働につく可能性が大きい。

 それが社会にとって有益なのか。このような改正によって、本当に青少年に規範意識が芽生え、犯罪抑止につながると、与党の議員たちは考えているのだろうか。

 民主党の鳩山由紀夫代表は原則逆送に理解を示す発言をした。野党の使命放棄に等しいとはいえまいか。


朝日新聞(朝刊)2000.9.16より転載・著者及び朝日新聞社に無断で転載することを禁止する

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