新倉修さん訳・國學院大学(以下翻訳されております
参考
バルガーちゃん殺人事件(毎日新聞事件インサイド)
参考
バルガーちゃん事件のタイムズの記事

書記官によるプレス・リリース(99.12.16)       
T対連合王国およびV対連合王国の事件に関する判決
1999年12月16日にストラスブールで言い渡された2つの判決で、欧州人権裁判所は、申立は国内の手続を尽くしていないというイギリス政府の前提的異議申立を全員一致で却下し、次のように判示した。

○申立人の裁判については欧州人権条約第3条(品位をおとしめる取扱いをされない権利)違反はないこと(12対5)
第6条第1項(公正な裁判の権利)違反があること(16対1)
第6条第1項および第14条(差別の禁止)に従って申立を審査する必要はないこと(全員一致)
申立人の量刑について第3条違反はないこと(10対7)
第5条第1項違反はないこと(全員一致)
量刑の設定に関して第6条第1項の違反があること(全員一致)
○申立人を拘禁する持続的な合法性について司法審査がない点に関して第5条第4項(裁判所によって裁判された拘禁の持続的合法性への権利)違反があること(全員一致)

申立人は、金銭以外の損害について補償を求めてはいなかったが、裁判所は、条約第41条に従って、法的費用と経費に要した金額を認めた。

1.主要事実

申立人両名は、イギリス国民であり1982年に生まれ、匿名を希望しているが、1993年に2歳の男子の誘拐および謀殺について有罪判決を受けた。両名は、犯行時10歳、裁判時11歳であり、裁判は刑事法院の公開の法廷で行われ、報道機関と公衆の関心は著しく高かった。有罪判決後、申立人は、「女王が望む限り」期間を定めずに拘禁される旨の宣告を受けた。イギリスの法および慣行によれば、女王が望む限り拘禁される旨の判決を受けた少年は、応報と抑止の要請を満たすため、内務相が定める「量刑表」の期間まず服役しなければならない。この刑期が終了すると、社会に対する危険があるとパロール委員会が判断しない限り、拘禁されていた人は釈放されなければならない。内務相は、申立人それぞれについて15年の量刑表を設定した。
この決定は、1997年6月12日の貴族院による司法審査手続において破棄された。この日以降、新しい量刑表はいっさい設けられていない。

2.裁判所の手続と構成

1999.3.4
申立は、1994年5月20日に、欧州人権委員会に提出された。同委員会は、申立が受理されると宣言した後、1998年12月4日に報告書を採択し、その中で、申立人の裁判に関して第3条違反はないこと(17対2)、同裁判に関して第6条違反があったこと(14対5)、第14条に従った別の論点はなかったこと(15対4)、申立人の量刑に関して第3条違反はなかったこと(17対2)、第5条第1項違反はなかったこと(17対2)、量刑設定に関して条約第6条違反があったこと(18対1)、第5条第4項違反があったこと(18対1)を認めた。同委員会は、1999年3月6日に、当裁判所に事件を付託した。イギリス政府もまた、1999年3月4日に事件を当裁判所に持ち出した。
審問は非公開で1999年9月15日に行われた。殺害された子どもの両親は、審問に出席し当裁判所に意見を述べる許可を求め、これを許された。判決は、次の通り構成された17名の裁判官からなる大法廷部でなされた。

3.理由要旨と判決

申立

申立人は、その年齢から見て、自分たちの裁判が公開の成人の刑事法院で行われ、かつ、判決が懲罰的な性格をもつことは、条約第3条に保障する非人道的または品位をおとしめる取扱いまたは処罰を受けない権利を侵害するものであると主張した。さらにまた、申立人は、条約第6条に違反して公正な裁判を否定されたと主張した。加えて、申立人は、女王の望む限り拘禁することを科する判決が第5条の自由に対する権利を侵害することになり、かつ、裁判官ではなく政府の大臣が量刑設定を決める責任を負うことが第6条の権利を侵害すると主張した。最後に、申立人は、条約第5条第4項に従って、今日まで申立人がパロール委員会などの司法機関によって拘禁の持続的な合法性を審査される機会がなかったことを主張した。

裁判所の判決

T 裁判に関する条約上の争点

政府の前提的異議申立

英国政府は、申立人の年齢および情緒的な障害の程度から見て、申立人の公開裁判が条約第3条に反する非人道的または品位をおとしめる取扱いにあるという申立人の主張、および、申立人が第6条第1項に違反して裁判を完全には理解できずまたは参加できなかったという申立人の主張が、申立人がその国内手続においていかなる主張も上訴もしていなかったので、国内の救済手段を尽くしていないという理由に基づいて、受理し得ないものと宣言するべきであるという主張を提出した。英国政府は、しかしながら、イングランド法において罪状認否をするのに適当でないことを立証するために必要とされるところに欠ける無能力な被告人が、刑事手続に完全には参加する能力がないことを理由として刑事手続の延期を獲得することができた事件、または、謀殺もしくはその他の重大な犯罪について起訴された子どもが刑事法院での公開の裁判が被告人に損害もしくは苦痛を生じさせることを根拠として延期を獲得することができる事件について、いかなる例にも言及することができなかった。裁判所は、したがって、前提的異議申立を却下する。

第3条

裁判所は、まず、10歳で行った行為に関して申立人に刑事責任を帰属させることが、それ自体、非人道的または品位をおとしめる取扱いにあたるかどうかを検討した。裁判所は、欧州評議会の構成国において、刑事責任の最低年齢について、明確な共通の基準を見出せなかった。多くの国ではイングランドおよびウェールズにおいて現に効力を有するものより高い年齢制限を採用してきたが、その他の国すなわちキプロス、アイルランド、リヒテンシュタインおよびスイスなどでは、刑事責任をもっと低年齢の人に帰属させており、かつ、たとえば子どもの権利に関する国連条約などの関連する国際文書を検討しても、明確な傾向は確認できなかった。イングランドおよびウェールズが刑事責任を低年齢の人について定めている少数の欧州法域に含まれるとしても、10歳が、他の欧州諸国によってとられている年齢制限にくらべて不均衡にわたるほど低すぎるということはできない。したがって、申立人に刑事責任を帰属させたことは、それ自体、第3条の違反を生じさせたわけではない。

裁判について第3条に関する訴えの第二部は、この裁判が形式性を伴う成人の刑事法院で公開して3週間にわたって行われたという事実に関係する。裁判所は、この手続が申立人を侮辱したり苦しませる意図が動機として国側にはなかったことを認めた。実際にも、被告人の年齢を考慮すると、成人裁判の厳しさを緩和するために、刑事法院の手続を変更するための特別な措置がとられた。さらに、このような手続が11歳の少年に対して有害な効果を生じさせる可能性があるという精神医学的な証拠があるにもかかわらず、2歳の子どもを殺害したことを尋ねるのは、それが公開で行われようと非公開で行われようと、刑事法院の形式的な手続または少年裁判所の非形式的手続を伴って、申立人に対し、罪障感、困窮、苦悩および恐怖感を引き起こすであろう。手続の公開性がこのような感情を一定程度募らせたことがあったとしても、裁判所は、この裁判過程の特別な特徴が著しい程度まで苦痛を生じさせ、当局による申立人を扱うあらゆる試みによって不可避的に生じさせたであろう限界を超えたとまで、確信するに至らなかった。したがって、裁判所は、申立人の裁判が第3条違反を生じさせたという事実を見出さなかった。

第6条第1項

第6条は、全体として読むと、みずからの刑事裁判に効果的に参加する被告人の権利を保障している。この事件は、裁判所がこれを子どもに対する刑事手続にどのように適用すべきか、とりわけ公開制など成人の権利を保障するものと一般に考えられている手続が子どもの理解と参加を増進するために、子どもに関しては廃止すべきであるかどうかを検討せざるを得なかった最初のケースであった。裁判所は、犯罪で起訴された子どもが、その年齢、成熟度および知的・情緒的能力を完全に考慮して扱われるべきであることは基本的なことと考えた。高いレベルでのメディアや公共の関心を惹く重大な犯罪で起訴された子どもに関して、できる限り子どもの威嚇感や圧迫感を減らすために非公開で審判を行い、あるいは、適切な場合において選ばれた出席者だけに限定しかつ裁判所の報告を提供することが必要であることを意味しうるのである。

申立人の裁判は、刑事法院において公開で3週間にわたって行われた。これによって、法廷の内外を問わず、きわめて高いレベルの報道および社会の関心を生み出し、裁判官はその要約にあたって公衆のまなざしによって証人に生じた問題に言及し、陪審に証拠を評価するにあたってこれを考慮するよう求めたほどであった。申立人の年齢を考慮して特別の措置がとられ、たとえば、裁判手続を説明したり、事前に法廷を見せたり、過度に疲れさせないように審判時間を短くしたりした。それにもかかわらず、刑事法院の形式的手続および儀式的な手続は、ときには、11歳の子どもには理解不能であり、威嚇的であったように思われる節もあり、しかも、法廷に加えられたいくつかの変更、とりわけ申立人が進行状況を見られるようにする目的で被告人席を高くしたことは、申立人が報道機関や公衆からの遠慮のない視線にさらされていると感じたので、裁判の間、申立人の不快感を増大させる結果となった。裁判の時に、申立人両名が、2歳の子どもにしたことや弁護士と犯罪について話し合うことができないと考えたことから、PTSDを受けていたことを示す精神医学的な証拠があった。申立人は、裁判を意気消沈させ威嚇的なものとみて、裁判の間集中できなかった。

このような状況において、裁判所は、申立人が有能で経験豊かな弁護士による代理を受けたことが第6条第1項の目的にとって十分であったとは考えなかった。申立人の法的代理人は政府が指摘するように「息がかかるほどの距離で」席に着いていたが、緊張した法廷において衆人環視のもとで、申立人のいずれも気兼ねなく裁判中に法的代理人と相談するほど気楽な気持ちでいたとか、あるいは、申立人の未成熟さや混乱した精神状態を考慮すると、申立人が、法廷外で、弁護士と協同したり、弁護の目的で弁護士に情報を提供したりすることができたはずだということは、きわめてありそうにない事態であった。したがって、申立人は、第6条第1項に違反して公正な審判を否定されていたことになる。
第6条第1項と第14条を結びつけて考えること
裁判所は、この申立を考慮する必要はないと考える

U 量刑に関する条約に基づく問題点

第3条

国は、国民を暴力犯罪から保護するための措置をとるよう、条約上の義務を負っている。量刑表のやり方に内在する懲罰的な要素は、第3条違反を生じさせるわけではなく、条約は、重大な犯罪について有罪とされた子どもまたは少年に対し、国民の保護のために必要な場合に拘禁を継続することができる不定期刑を科すことを禁止するものではない。新しい量刑表が設定されるまで、1993年11月以来6年間拘束されてきた申立人が服してきた懲罰的な拘禁の期間に関して結論を導き出すことはできないであろう。裁判所は、申立人の年齢および拘禁の状態を含む本件のあらゆる事情を考慮すると、この長さの懲罰的拘禁の期間は、非人道的または品位をおとしめる取扱いにあたりうるとは考えなかった。

第5条第1項

女王の望む限り拘禁するとの判決は、イングランド法のもとでは明らかに合法であり、恣意的なものではなかった。したがって、第5条第1項に対する違反はなかった。

第6条第1項

第6条第1項は、とりわけ、量刑の決定を含む「いかなる刑事上の罪責の……決定」に関しても独立かつ偏跛でない裁判所における公正な審判を保障している。女王の望む限り拘禁するとの判決を受けた少年が服する「量刑表」は、応報および抑止の目的のため少年を拘禁することができる最長期間を示していた。これが終了すると、少年が危険であると信じるに足りる理由がない限り、少年は釈放されなければならなかった。裁判所は、申立人が行った司法審査手続において貴族院が認めたように、量刑表の定めは量刑執行にあたると考えた。本件申立人の量刑表を定めた内務相が明らかに執行権から独立したものではないので、申立人の量刑の決定に関して第6条第1項の違反があった。

第5条第4項
申立人の量刑表が内務相によって決定されていたので、その量刑の最初の決定に含まれる司法上の監督がなかった。第5条第4項は、女王の望む限り拘禁される子どもに対し、量刑表の期間が終了した後において、社会に対するその危険性と、したがって、その拘禁の持続的合法性についてパロール委員会のような司法機関による定期的な再審理を認めていた。しかしながら、申立人は、内務相の決定が貴族院によって破棄され、新しい量刑表がいまだ定められていなかったので、この権利を享受する機会を一度も得ることがなかった。裁判所は、したがって、1993年11月の申立人の有罪判決以来、申立人がその拘禁の合法性を司法機関によって審査される機会が欠如していたことに基づき、第5条第4項の違反があると考えた。

V 条約第41条

裁判所は、Tに対して1万8000ポンド、Vに対して3万2000ポンドの法定費用を与えた。

リード裁判官は同調意見を述べ、ロザキス、パストール、リドレウホ、レス、、マカルツィック、コスタ、トゥルケンス、ブチェヴィッチおよびバカ各裁判官は、本判決に付記した一部反対意見を述べた。

裁判所の判決は、インターネットのサイトでアクセスできる。(http://www.dhcour.coe.fr)