少年法改正資料第一号 〔昭和四五年五月〕

少年法及び少年院法の制定関係資料集

                                     法 務 省 刑 事 局
一六 少年法を改正する法律案の衆議院における司法委員会委員長の報告
                                    (官報号外昭和二三年七月四日衆議院会議録第七七号の(三))

○井伊誠一君 ただいま議題と相なりました少年法を改正する法律案及び少年院法について、司法委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
 まず少年法を改正する法律案について、政府原案の要旨から申し上げます。
 最近少年犯罪が激増し、かつ悪質となりつつあることは、毎日の新聞で御承知の通りであります。これは主として戦時中の不完全な教育と、終戦後の社会的混乱のためであります。今や祖国の租国もようやく復興せんとする際、少年にたいする刑事政策的見地から構想を新たにし、少年法を全面的に改正すべき時期に到達しました。今回の改正の重要点は、第一に、少年に対する保護処分は裁判所がこれを行うようにしたこと、第二に少年の年齢を二十歳に引上げたこと、第三に、少年に対して保護処分か刑事処分を科するかを裁判所みずから判断するようにしたこと、第四に、保護処分の内容を整理したこと、第五に、抗告を認めたこと、第六に、少年の福祉を害する成人の刑事事件に対す裁判権について特別の措置を認めたこと等であります。以上が政府原案の要旨であります。
 本改正法案は、六月十六日当委員会においては、厚生委員会の質疑も多く、あたかも司法、厚生連合委員会を連日開いて審議せる観を呈したのであります。以下、委員会において論議の中心となった点二、三を御紹介申し上げます。
 第一に、犯罪を犯した少年を家庭裁判所に入れ、罪を犯さない不良少年を児童相談所に入れることは、すでに定まっていることではあるが、罪を犯すおそれのある少年については、これを児童相談所に入れるか、あるいは家庭裁判所に入れるかについて、意見がわかれたのであります。不良少年であっても、罪を犯さない少年は、これを児童相談所に送って、愛と涙で教育する方がよい、この方針は児童福祉法制定以来確立しているが、児童相談所は四月から発足したばかりで、未だ見るべき実績をあげていないというのが、主として厚生に関心ある委員の意見であります。これに対して、不良少年であって、今は罪を犯さなくても、やがて罪を犯すことが多年の経験上あるいは環境条件によって判明しておる少年に対しては、強制力と愛護とを併用した監護教育の必要がある、不良少年を愛の手でなでまわしてばかりいては、少年犯罪問題は解決されない、殊に少年審判所は、三十年の専門知識と熱烈なる篤志家とを擁している、少年福祉行政の所管が将来どこにいくかは別として、敗戦後数年間の現在が少年問題にとって最も危機でおる、これがためには、憲法上強制力を附与されている機関として家庭裁判所を利用すべきであるというのが、主として少年裁判に関心ある人の意見であります。
 第二の問題は、罪を犯すおそれのある不良少年であって、強制力を必要とする少年は、いかなる種類の少年であるかという質疑に対して、政府から医学、心理学、社会学等の科学的方法によって児童を鑑別するという程度で、あまり明確なる答弁はありませんでした。
 .第三に、最高裁判所の意向として、罪を犯すおそれのある少年は、これを児童相談所と家庭裁判所の両方へ送致すべきであり、一方を主とし、他を従とすべきものではない、かつ児童を児童相談所から家庭裁判所に、反対に家庭裁判所からも少年を児童相談所に送致できるようにすべきであるという見解であることが、政府委員を通じて判明いたしました。
 司法委員会は、七月一日、二日と懇談を重ねて、厚生委員の意向をも斟酌して、修正案を各派共同にて提出しました。その内容は、一言で言えば、十四歳未満の少年を児童相談所より家庭裁判所に送致することができるということであります。
 右の各派共同修正案は七月三日提出され、前回一致にて可決されました。修正案を除くその他の部分は、政府原案の通り可決されました。結局、少年法改正する法律案は修正議決された次第であります。
 次に、少年院法案について御報告申し上げます。
 少年に対し収容施設を拡大し、矯正教育を徹底させ、かつ基本的人権の保障を全うするために、新しい構想のもとに少年院を設け、さらに少年裁判所の審判前の少年、つまり未決の少年を収容する施設、すなわち監護所を矯正施設から分離独立させるため、少年院法をつくることになったのであります。
 少年院においては、混合収容の弊害を避けるととものに、矯正教育を便宜にするため、少年院を初等少年院、中等少年院、特別少年院及び医療少年院の四種にわかったのであります。初等少年院は、心身の著しい故障のない十四歳以上十六歳未満の者を収容するのであります。中等少年院は、十六歳以上二十歳未満の者を収容するのであります。特別少年院は、心身に著しく故障がなくても、犯罪傾向の進んだ者を収容するのであります。医療少年院は、心身に著しく故障のある十四歳以上二十六歳未満の者を収容するのであります。
 少年院における矯正教育の一部は、学校教育法による教育と同一でありますから、常に文部部大臣と密接な連絡を保つ必要があります。かつ、その勧告に従って教育の進歩をはかることにしております。次に、少年院においては累進処遇の主義を採用しております。また、収容者の年齢の制限を一応二十歳と定め、原則として二十歳で退院させますが、超えても二十三歳以上となってはいけないことになっております。
 さて、少年院法は六月二十三日に司法委員会に付託され、六月二十六日提案理由の説明がありました。爾後、少年法とともに審議の対象となりました。質疑は多く懇談会にて行われ、七月三日討論に入り、各党代表より賛成意見の開陳があり、採決の結果、全会一致をもって政府原案の通り可決された次第であります。
 右、少年法改正法案と少年院法案について一括して御報告申し上げました。

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