少年法改正資料第一号 〔昭和四五年五月〕

少年法及び少年院法の制定関係資料集

                                     法 務 省 刑 事 局
一五 少年法を改正する法律案に関する衆議院司法委員会報告
                                    (官報昭和二三年七月三日衆議院司法委員会議録第四九号)

一 議案の要旨
 最近少年の犯罪が増加している。この際少年に対する刑事政策的見地から構を新たにして少年法の全面的改正を企て、以て少年の健全な育成を期さなければならぬ。今回の少年法改正の重要な点をあげれば次の通りである。
 第一に、少年に対する保護処分は裁判所がこれを行うようにしたことである。即ち行政官庁たる少年審判所が少年院送致その他の強制的な処分を行うことは憲法の精神に違反するものといわねばならぬ。従つて少年審判所を裁判所に改め、これを最高裁判所を頂点とする裁判所組織の中に組み入れるのは当然のことである。
 第二に少年の年齢を二十歳に引き上げたことでる。即ち最近の犯罪青少年の傾向をみると、二十歳位までの者に特に増加と悪質化が顕著であって二十歳位の者は未だ心身の発育が十分でなく、環境の影響を受け易いことを示しているのであるが、このことは彼らの犯罪が深い悪質に根ざしたものでなく、これに対して刑罰を科するよりは、むしろ保護処分によってその教化を図る方が適切である場合を意味している。よって思いきって少年の年齢を二十歳に引き上げたのである。
 第三に、少年に対して保護処分を行うか刑事処分を科するかを裁判所が判断するようにしたことでおる。即ち、今回の改正においては一切の少年の犯罪事件が警察又は検察庁から家庭裁判所に来て、家庭裁判所が訴追を必要と認めるときは、これを検察官に送致するようになっているのである。しかもこの検察官への送致は、十六歳未満の少年については絶対に認められぬ。送致を受けた検察官は送致された事件について犯罪の嫌疑があれば、原則としてこれを起訴しなげればならぬ。
 第四に、児童福祉法との関連に留意したことである。即ち児童福祉法によって行う福祉の措置は、犯罪少年と虞犯少年とに及ばず、又それが行政機関によって行われる限り、強制力を用いることができないのである。これらの諸点において家庭裁判所の関与する余地がある。このように少年保護の各機関が相互に協力しつつ少年の福祉を図ることが望ましいわけである。
 第五に、保護処分の内容を整理したことである。即ち今回の改正においては保護処分の決定と執行とを分離し、一度裁判所が保護処分を決定したら、その後の執行は全部執行機関に一任することにしたのでおる。その代り決定に慎重を期するため、従来軽い処分として規定されていたものを多少内容を修正して決定前の措置に切り替えたのである。
 第六に、抗告を認めたことである。即ち今回の改正においては人権尊重の趣旨に則り、特に高等裁判所に対して保護処分に対する不服申立を認めたのである。
 第七に、少年の福祉を害するようた成人の刑事事件を家庭裁判所が取り扱うことにしたことである。元来少年不良化の背後には成人の無理解や不当な処遇がひそんでいることが多い。かような成人の行為が、犯罪を構成する場合には、その刑事事件は少年に理解のある家庭裁判所がこれを取り扱うことが適当でおる。何となればかような成人の刑事事件は少年事件の取調によって発覚することが多く、その証拠も大体共通だからである。

二 議案の修正議決理由
 第一に、少年は次代の国民であって、少年犯罪を看過することは国民頽廃の傾向に眼を蓋うことである。新日本建設のためには、その根源として青少年の健全なる育成を重視しなくてはならない。少年法の全面的改正は、この機会において当然に是認されるところである。しかして改正の重要点もまた従来の少年法問題において解決できなかったものを一挙に解決又は着手せんとしたものであり、その方法はアメリカの先例により成功した方法を参酌している。この点において論議すべき問題は少いのである。
 第二に、青少年育成の行政系統からいえば相当に問題がおる。殊に児童福祉法と少年法との関係、厚生省の児童相談所と法務庁系統の家庭裁判所との関係は複雑であって、一片の理想論でも、伝統的経験論でも、ともに解決されないのである。政府原案によれば十八歳未満のものは都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り家庭裁判所は審判することができることになっている。かくの如きは児童相談所の将来の発展を期待する理想論に過大評価をなすものである。家庭裁判所の前身たりし少年審判所の現在及び過去の伝統的実績に対し過小評価をしてはならたい。少くとも現存の問題として巷に氾濫する不良青少年の問題を早急に解決せんとするならば、愛の他に強制力を必要とすることは何人も異論のないところである。本委員会はこの点に鑑み、政府原案の行政系統を覆すことなく、その年齢を十八歳から十四歳に低下することによって一応この問題を解決したのである。即ち第三条第二項において十四歳に改め、第二十四条において十四歳未満の少年を児童相談所に送致する必要なしと修正したのである。少年法を改正する法律案は以上の経過をたどって別紙のごとく修正議決せられた次第である。
 右報告する。
昭和二十三年七月三日
                  司法委員長 井伊誠一

衆議院議長松岡駒吉殿

(小字及び_は修正)
少年法を改正する法律案の一部を次のように修正する。

(審判に付すべき少年)
第三条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
 一 罪を犯した少年及び十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
 二 次に掲げる事由があって、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯す虞のある少年
(イ)保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
(ロ)正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
(ハ)犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること。
(ニ)自己又は他人の徳性を害を行為をする性癖のあること。
2 家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年で十八歳十四歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付することができる。

(判事補の職権)
第四条 第二十条の決定以外の裁判は、判事補が一人でこれをすることができる。

(管轄)
第五条 保護事件の管轄は、少年の行為地、住所、居所又は現在地による。
2 家庭裁判所は、保護の適正を期するため特に必要がおると認めるときは、決定をもって、事件を他の管轄家庭裁判所に移送することができる。
3 家庭裁判所は事件がその管轄に属しないと認めるときは、決定もって、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない。

(保護処分の決定)
第二十四条 家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもって、次に掲げる保護処分をしたければならない。
一 十四歳に満たない少年については、これを児童相談所に送致すること。
二 満十四歳以上の少年については、次の処分を行うこと。
(イ)地方少年保護委負会の観察に付すること。
  (ロ)児童相談所に送致すること。
(ハ)教護院又は養護施設に送致すること。
(ニ)少年院に送致すること。
2 前項第二号(イ)及び(ニ)の保護処分においては、地方少年保護委員会をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。前項第一号及び第三号の保護処分においては、地方少年保護委員会をして家庭その他の環境調整に関する措置を行はせることができる。

(保護処分の効力)
第四十六条 罪を犯した少年に対して第二十四条第一項の保護処分(第二号(ロ)の保護処分を除く。)がなされたときは、審判を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することはできない。

(経過規定)
第六十三条 この附則で「新法」とは、この法律による改正後の少年法をいい、「旧法」とは、従前の少年法(大正十一年法律第四十二号)をいう。
2 この法律施行の際少年審判所に係属中の事件は、これを家庭裁判所に係属したものとみなす。
3 前項の場合において、旧法第三十七条の規定によりなされた処分は、次の例に従い、これを新法第十七条の規定によりなされた措置とみなす。
旧法第三十七条 新法第十七条
第一項第一号から第四号までの処分 第一項第一号の措置
第二項の処分 第一項第二号の措置
4 旧法第四条第一項第五号から第九号までの保護処分は、次の例に従い、これを新法第二十四条又は第二十五条の規定によりなされたものとみなす。
旧法第四条
第一項第五号(保護団体に委託する保護処分を除く。)及び第九号の保護処分
第一項第五号中保護団体に委託する保護処分及び第六号の保護処分
第一項第七号の保護処分
第一項第八号の保護処分
新法
第二十五条第一項及び第二項第三号
第二十四条第一項第二号(イ)一号
第二十四条第一項第二号(ハ)
第二十四条第一項第二号(ニ)三号
5 前二項に規定するものの外、旧法の規定によりなされた処分は、この法律の相当規定によりなされたものとみなす。

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