日弁連総第28号 2000年9月13日 |
自由民主党 総裁 森 喜朗 殿 公明党 代表 神崎 武法 殿 保守党 党首 扇 千景 殿 |
日本弁護士連合会 会長 久保井 一匡 |
少年法「改正」法案に関する要請書 |
報道によれば、与党三党は自民党が提案した「刑事罰対象年齢引き下げ案」の手直しを行い、かつ、6月2日に廃案となった政府提出法案を修正し、これらを合体させた少年法「改正」法を、9月開会予定の臨時国会に提出すると伝えられています。 与党三党の提案要旨では、刑事罰対象少年の拡大については、@対象年齢を14歳以上に引き下げる、A16歳以上で殺人や強盗致死罪などの人を死亡させた事件の故意犯の首謀者は原則として逆送にするとのことです。 しかし「刑罰化」「厳罰化」が少年犯罪の抑止につながらないことは、アメリカの例でも明らかです。または、少年の立ち直りにとっても、少年法の理念に基づく矯正教育こそが有効であり、刑罰はマイナスです。近年、ドイツ、イギリス、アメリカにおいても、実証的な調査・研究に基づき、応報刑から改善・更生のための処遇の充実への転換が図られています。 少年犯司法の「刑罰化」「厳罰化」の是非については、拙速な結論を避け、少年犯罪の実態と原因の調査や重大な少年事件のケース分析を丁寧に行うなど、少年問題に携わる幅広い人々の意見を聴し、慎重な検討と討議を尽くすべきであると考えます。 また、6月に廃案になった政府提出法案の修正についても、当連合会が従前から主張している問題点の改善はなされていません。 まず、当連合会が第一に主張している少年事件の捜査の改革に手をつけておらず、また、予断排除原則がなく、伝聞法則もない審判廷に検察官が出席するという少年にとっての不利益・不公平性は全く改められていません。 さらに、重大な事実誤認などを理由とする検察官の高等裁判所への抗告受理申立権の付与は、実質的に見て検察官に抗告権を付与するとの同様の機能を果たすことは明らかです。家庭裁判所の事実認定について、裁判官が少年の自白調書などの捜査記録を予め読んでいるという刑事裁判以上に少年に不利益な審判構造を維持して、検察官の審判出席を認め、さらに加えて検察官に不服申立権を認めるなどという制度は、適正手続きの観点から許されることではありません。しかも、事実誤認を理由とする抗告受理申立権は、事実審理の負担を最小限にとどめるための憲法39条の二重の危険の法理に反することと考えられるばかりか、家庭裁判所の審判への協力者と位置付けられた検察官の地位とも理論的に矛盾します。 被害者の権利保障を確立する必要性は当連合会もかねてから主張しており、積極的に進めるべきです。しかし、被害者の意見表明とその記録化および被害者への通知制度は捜査段階でこそ丁寧に行われるべきであり、与党三党提案ではこの視点が欠けています。 当連合会は今回の与党三党の提案に反対ですので、抜本的な再検討を強く要請するものです。 |