1999.10月発表

日弁連 犯罪被害者基本法要綱

1.目的
この法律は、犯罪被害者支援の基本理念ならび犯罪被害者のために国及び地方公共団体が行うべき施策の基本を定め、もって犯罪被害者の被害回復及び社会復帰を速やかに実現することを目的とする。

2.国及び地方公共団体の基本的責務
国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するために、法制度を整備し、財政上の措置を講ずるなどの総合的な施策を策定し、これを実施する責務を有する。

3.犯罪被害者
(1)犯罪被害者とは、刑罰法令に違反する行為によって、生命、身体、財産、精神、又は人格等に対する危害を被った者及びその遺族をいう。
(2)犯罪被害者の認定にあたっては、加害者の特定の有無、加害者に関する刑事手続の進行状況、加害者が処罰されるか否か、又は加害者との間に夫婦・親子関係等の特別な関係があるか否かは問わないものとする。


4.準犯罪被害者
準犯罪被害者とは、犯罪被害者の家族及び被扶養者、ならびに被害者防止及び被害者救助のための行動をしたことにより被害を被った者をいう。

5.基本理念
(1)犯罪被害者には、敬意と共感を持って接し、被害の内容及び加害者との関係などに基づく予断と偏見を持ってはならない。
(2)犯罪被害者のプライバシーは、尊重されなければならない。
(3)犯罪被害者は人種、言語、国籍、信条、宗教、性別、年齢又は社会的身分等により差別されてはならない。


6.国及び地方公共団体の施策
(1)国は、犯罪被害者のため、次の各号に掲げる事項に関し必要な施策を講じなければならない。

1 支援
ア.犯罪被害者が、被害者支援組織ならびに医療、カウンセリング及び法律等の専門家の支援を受けるための制度を確立すること。

イ.犯罪被害者が、被害を被った直後に必要とする費用、及び前号の支援を受けるための費用を援助する制度を確立すること。

ウ.犯罪被害者が、被害の反復継続を避け、被害の精神的苦痛を緩和し、又は、加害者からの報復を避けるために利用することができる生活施設を設置、運営し、及び同様の目的を持つ民間機関を援助すること。

2 被害回復
ア.犯罪被害者が、速やかかつ容易に損害賠償請求を行うことを可能とすること。

イ.犯罪被害者が、十分な被害補償を受けるための制度を整備すること。

3 刑事手続への関与等
ア.犯罪被害者が関係機関から、当該事件に関する刑事手続等の進行状況に関する通知、説明を受けられるようにすること。

イ.犯罪被害者が、その被害を回復するために、可能な限り早期に刑事手続等の記録を閲覧・謄写できるようにすること。

ウ.犯罪被害者が捜査機関に対して意見を表明する機会を設けること。
 公判段階においては、犯罪被害者が、検察官に対して自ら証人として尋問を受けるべく証人尋問申請をするよう申し出る権利を設けること。

エ.犯罪被害者が、安全かつ平穏に、捜査機関の事情聴取に応じ、公判において証言できるような制度、施設を整備すること。

4 プライバシーの保護
犯罪被害者のプライバシーが不必要に侵害されないようにすること。

5 教育と啓蒙
ア.犯罪被害者の状況及び犯罪被害者の実情を調査すること。
イ.警察、司法等の関係機関及び被害者支援活動に携わる、職員、ボランティア及び専門家等のための、教育制度及び研究機関を整備すること。

ウ.犯罪被害に関する諸問題及び犯罪被害者支援の課題等について、啓蒙活動を推進すること。

(2)地方公共団体は、国の施策に準じて、必要な施策を講じなければならない。

(3)本条項による施策を講ずるにあたっては、犯罪被害者自身の特性、被害の特徴などに応じた、適切な配慮しなければならない。

7.準犯罪被害者に対する施策
前項による施策を講ずるにあたっては、準犯罪被害者に対しても、できる限り配慮しなければならない。

8.犯罪被害者支援会
(1)国は、犯罪被害者に対する総合的な施策を推進するために、広く国民によって構成される「犯罪被害者支援会議(仮称)」を設ける。
(2)会議は、犯罪被害者に対する基本的施策の企画に関して審議し、及びその施策を推進する事務をつかさどる。
(3)会議は、国家に対して、各年度毎に、犯罪被害者に関する施策の実施状況を報告しなければならない。


9.被害者及び被告人の権利
この法律に基づく施策を行うにあたって、被疑者及び被告人の権利を不当に制限することがあってはならない。特に、少年事件に関しては、少年の保護、更生を目的とする少年法の理念を尊重しなければならない。