少年法「改正」法案の問題点
― 厳罰と警察権限の強化 ―

弁護士 斎 藤 義 房

 2006年2月に国会に再提出された少年法「改正」法案は、2007年1月からの通常国会が審議の正念場となります。
 今回の「改正」法案の主な内容は、第一に、14歳以上という少年院収容年齢の下限を撤廃して小学生であっても収容できるようにするなどの厳罰化であり、第二に、法をおかした14歳未満の少年や「法を犯すおそれ(ぐ犯)の疑いのある少年」についての警察権限の拡大・強化です。
 わが国で近年14歳未満の少年の重大な事件が増加している事実はありません。10歳以上14歳未満の少年人口1,000人当りの一般刑法犯検挙人員は、1981年の8.9をピークに減り続け、2004年は4.2にまで下っています。
 個別の事件を分析すると、重大な非行をおかした少年ほど、成育過程で親からの虐待や学校でいじめを受けていたり、発達障害に対する周囲の大人の無理解から適切な援助を受けていないなど、ストレスやハンディをかかえ、自己肯定感や自尊感情を持てないでいる子どもが多いのです。その様な少年は、「自分など死んでもよい」という心理状態になっていることもあり、罰を受けるからといって非行を思い止まることはありません。

「罰」と「監視」の強化よりも、子どもの成長・発達としあわせをめざす日本社会に
 愛情に恵まれなかった子どもは、自らを受容され信頼されることではじめて、他人を受容し信頼することができるようになり、対人関係能力や社会適応能力を身に付けるようになります。また、自分自身が尊重されることを体験するなかで、他者も尊重されるべき存在であることを認識し、被害者に対する真の贖罪と責任の感情が生まれます。
 今回の「改正」法案は、非行防止に最も有効な福祉的・医療的・教育的ケアを充実させることなく、「罰」と警察の監視を強化するものです。
 なかでも、警察官の調査権限の拡大がもたらす影響は重大です。
 触法少年に対する警察官の聴き取り調査は、大人ですら多くの実例がある自白強要の危険性を14歳未満の少年にそのまま持ち込むものです。適切な大人や弁護士が立ち合わず、ビデオ録画もない「密室」で警察官に対置させられた小学生や中学1年生がどの様な状態になるか容易に想像できます。少年のえん罪事件が増加することは確実です。

「共謀罪」の子ども版か?!
 さらに、法案は、「法を犯すおそれ(ぐ犯)の疑いのある少年」に対する調査権限を警察官に付与しており、その影響は深刻です。そもそも現行少年法の「ぐ犯少年」とは、法を犯すおそれのある少年を意味し、その限界が曖昧です。それに加えて法案は、「法を犯すおそれの疑いのある少年」まで調査対象とするというのですから、限定がないに等しいと言えるでしょう。そして、警察官は、自らの判断で少年、保護者、少年の友人、知人を呼び出し、質問することができるようになります。さらに警察官は、学校や福祉機関、その他公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることもできるようになります。学校から警察への情報提供は、学校・教師と保護者・子どもとの信頼関係にも重大な影響をもたらすでしょう。
 警察は、治安回復を目的の第一に掲げる組織です。その警察の権限を拡げ、広範な子どもを「非行予備軍」として不信の目で監視することが、少年非行の防止につながるという発想に根本的な問題があります。不信の目で見ている大人を子どもが信頼することはありえません。
 少年非行を防止するためには、子どもの力を信じ、その成長を支援する福祉・医療・教育を充実させ、子どもが大人を信頼できる社会をつくることこそ重要です。

(日弁連子どもの権利委員会少年法「改正」問題緊急対策チーム座長)

2006.12.18記