2006年4月26日
衆議院法務委員会 委員各位
参議院法務委員会 委員各位
日本キリスト教協議会(NCC)教育部
                                 総主事 大嶋果織
                         プログラム委員会委員長 呉 寿 恵
宗教教育者の立場から、今回の「少年法改正法案」の見直しを求めます
 去る4月22日、中学2年生の殺害容疑で高校1年生が逮捕されて以来、この事件に関する報道が続いています。子どもが被害者になるばかりでなく、加害者にもなるという悲しい現実にわたしたちは改めて衝撃を受けると共に、被害者の家族の悲嘆を考えると胸が痛みます。
しかし、わたしたちは同時に、この事件によって「少年法厳罰化」の方向がさらに推し進められ、現在、国会に上程されている「少年法等の一部を改正する法律案」に基づく少年法改正が早急に行われるのではないかと危惧も抱いています。
 「厳罰」が犯罪を抑制することはないというのは、諸外国の例からもすでに明らかです。わたしたちは、やり場のない不安やいらだちを「厳罰化」や「子どもの監視・管理強化」で解消するのではなく、どうしたら子どもが非行や犯罪に走らなくてもすむ社会を作っていけるのか、また、どうしたら罪を犯した子どもの立ち直りを支えることができるのか、今こそ冷静に考えていくべきでしょう。
 そのような視点から、今回の「改正案」について、以下にわたしたちの意見を4点にまとめて述べ、法案の「見直し」を求めます。

1. 警察官の調査権限の拡大強化に反対です
 子どもに対する警察の不適切な取り調べが、嘘の自白やえん罪につながった事件をしばしば耳にします。このような状況を放置したまま、「14歳未満の子ども」や、「罪を犯すおそれのある子ども」が警察官の取り調べの対象となれば、今より以上に、人権侵害が起こるであろう事は想像に難くありません。むしろ、必要なのは、警察による人権侵害の予防策です。取り調べの際の保護者等の「立ち会い」の徹底や、録音・録画による取り調べの「可視化」などの対策が検討されるべきではないでしょうか。

2. 少年院送致年齢の下限撤廃に反対です
 わたしたちは宗教教育者としてさまざまな場で子どもたちと関わっています。その中で実感するのは、愛され、受容され、信頼されて育つことの大切さです。重大事件を起こす子どもほど、こうした「育ち」を経験してきていないと思われます。わたしたちは、どんな重大事件を起こした子どもでも、その子が幼ければ幼いほど、拘禁を前提とした少年院での矯正教育ではなく、安定的で親密、開放的で家庭的な雰囲気のもとでの「育て直し」が必要と考えます。

3.保護観察中の遵守事項を守らない少年の少年院送致を可能にすることに反対です
 子どもたちとの関わりの中で、わたしたちが学んできたことは、子どもの行動には子どもなりの理由があるということです。遵守事項を守らない/守れない子どもには、たとえ大人には理解できなくても、その子なりの理由があるのです。そうした子どもの事情を考慮することなく、少年院送致という「脅し」によって圧力をかけることは、かえって子どもたちの反発を招くでしょう。子どもたちが必要としているのは、「不信」ではなく「信頼」のまなざしです。その中で、子どもたちは試行錯誤しながら、立ち直りへの長い道のりを歩んでいくことができるのです。

4.福祉や教育の充実を求めます
 わたしたちは、どの子もすべて神に愛されるかけがえのない存在であることを信じて、日々、子どもたちと向き合っています。非行や犯罪に走った子どもも、かけがえのない大切な仲間です。どうか、厳罰化や監視・管理体制の強化に力を注ぐのでなく、むしろ人手も財政も慢性的に不足していると言われる児童相談所や児童養護施設、児童自立支援施設の機能強化や、保護観察制度の拡充に知恵と力を使ってください。子どもたちの立ち直りを支援するために、福祉と教育の分野の充実を求めます。
以上