会長談話(2000年5月11日)
日本弁護士連合会会長 久保井一匡
本日、衆議院本会議において、少年法「改正」法の趣旨説明が行われ、法務委員会において実質審議が開始されることとなった。
今回の審議入りは「5千万円恐喝事件」や17歳の少年による「主婦刺殺事件」「バスジャック事件」等をも契機としているが、これらの少年事件が示していることは、子どもの最初のSOSや問題行動を正面から受け止めて対応しようとしない家庭、学校、警察、地域社会のあり方の問題や、少年の心の成育の未熟さ・不安定さであって、この法案のような対症療法的な処罰の強化によっては同様な事件の防止を期待できることは考えられない。いま緊急に求められていることは、これらの事件の真の原因を探求する中で子どもの状況を正確に把握し、子どもの成長を真に支援し援助する大人の側の連携と協力の態勢づくりである。
今回の法案の提案理由は、少年審判の事実認定の一層の適正化を図るとしている。しかし、法案では、事実の認定に最も重大な影響を持つ少年事件捜査の改革には一切ふれられていない。しかも、厳格な証拠法則もなしに少年の自白調書を含む全ての捜査記録に裁判官が目を通すという現行の審判構造を前提にしつつ、検察官を審判に出席させることを認めており、少年審判は刑事裁判以上に少年にとって不利益・不公平なものとなる。また、法案では、国選付添人選任事件の範囲がきわめて狭く、刑事事件の国選弁護人制度と対比して少年の権利保障は著しく均衡を失している。さらに、検察官に抗告権を付与しており、少年はいつまでも不安定な状態に置かれる。その結果、この法案では草加事件のようなえん罪事件が増加する恐れも禁じ得ない。加えて、検察官が審判に広く関与しかつ抗告権を持つことから、少年法の教育的・福祉的理念が変質する危険性もある。
少年事件被害者の権利保障面でも、本年3月に発表した当連合会の「少年事件被害者の少年事件手続きへの関与等に関する規定」案と比較するときわめて不十分である。
今回の法案は、法制審議会での審議期間も短く、学者や少年の更生・保護に関わる関係者の間でも十分な議論が尽くされないまま、国会に上程されたものである。
当連合会は、今回の法案にあらためて強く反対するとともに、国会において、少年の権利と適正手続きの保障および被害者の権利保障の観点から、徹底した慎重審議がなされるよう強く求めるものである。