少年法「改正」は慎重に!・・家裁調査官の現場から

寺尾 絢彦


 私は今春家庭裁判所を退職した者でございます。これまで35年間、少年係調査官として、多くの非行を犯した子どもたちに関わってまいりました。少年法改正が論じられている今、実務をしてきた者として考えたことを申し述べ、参考にしていただきたいと思います。

非行少年とは
 先生方は、少年法における「少年」を論じる時どんな少年をイメージしていらっしゃるでしょうか。14才から20才までの時代は、人間の成長において、乳幼児期に次いで著しく成長をとげる時代です。しかも、同じ年齢でも個人差の大きいことは言うまでもありません。幼児のように幼い少年から大人に近い少年まで様々であり、同じに短期間に急激な変化を遂げる(いい方向にも、悪いほうにも)のも特徴であり、これが成人とは大きく違うところです。大人顔負けのことをやっているということではなく、こどもだからこそやってしまったりするものです。私は、単純に大人と子どもを同じ物差しで比較する考え方には反対です。そして一部の少年を対象に改正されたものであっても、法律は一度改正されればこれらの少年全てに適用されることになります。
 子どもは、大小様々な誤りを犯しながら、それを愛情と厳しさをもった大人に指摘されたり受けとめてもらったりしながら成長していきます。しかし、非行少年にはそういう体験を持たずに成長してきた子どもが多いのです。また彼らは、自分が加害者であっても直ぐに被害者になったり、その逆になったりもします。こういう少年に必要なことは、何かあった時に、周囲の大人が正面からしっかりと関わりをもっていくことです。

全件送致主義の形骸化・・丁寧な対応をされない少年
 現少年法は、全件送致主義をとっており、すべての事件は家裁に送致されるのが原則です。しかし、10数年前から、警察は軽微な事件(形は軽微でも大変な問題を抱えたりしているのが少年事件なのですが)は、立件送致しないで署限りで終わりにしてしまうということが多くなりました。更に簡易送致(一定の軽微な事件に関しては簡単な送致書により、家裁も原則として何もせずに終わりにする)率が年々増加し、全国で一般事件(交通関係を除いた)の40%を越えるまでになっています(ちなみに昭和40年には5.3%でした)。その上通常送致されたものも、家裁で簡易処理として充分な面接もないまま終了している事件があります。従って、調査官がきちんと面接していく事件は全事件の30%位になってしまいます。ちょっとした万引きや自転車盗、恐喝では、親や教師も警察も、周囲の大人が誰もきちんと関わろうとせず、その為少年は立ち直りのきっかけを逸してしまい、次により大きな犯罪を引き起こすということになります。現場の調査官はこのことの危険性を以前から危惧しておりました。

少年が自分の問題に向き合うとき・・「改正」は逆!
 このような少年に対して、事件の大きさだけを問題にして検察官が立ち会ったり、合議制にして裁判官の数を増やしたり大人が少年を厳しく追及したとしても、そのことで少年が本当に自分の問題として考えるようになるとは思えません。
 少年は罰を恐れて非行をやめたりはしないのです。いや非行を犯す時、後のことを考えたりはしないのです。勿論罰を恐れて反省するものでもありません。しっかりと自分と向き合い、愛情と厳しさのなかで共に考えてくれる大人の存在があって始めて自分のことを考えるのです。
 また、被害者に対する真の贖罪の意識というものも、罰が重ければそれで生まれるというものではありません。それはあくまでも、時間をかけた教育によって生まれるものなのです。

今、本当に必要なものは
 いま本当に必要とされるのは、少年のことをよく分かった警察官の養成、全件送致主義を貫くこと、現少年法の目的を正しく実現できる裁判所職員、特に裁判官・調査官、書記官の増員、付添人制度、矯正現場の充実です。現場の意見を聞くこともなくなされようとしている少年法の改正ではありません。
 未来を担う少年たちのために、慎重にお考え頂きたくお願い申し上げます。