1999年11月4日

最高裁判所長官様

検察官関与に反対し少年法を考える市民の会

家庭裁判所調査官研修所の廃止についての意見

 来たる2000年、家庭裁判所調査官研修所が廃止され、裁判所職員総合研修所となることが、現在最高裁において計画されているとのことですが、私たち「検察官関与に反対し少年法を考える市民の会」は、これに対し、強い危惧を抱いています。
 なぜなら、これは、現在少年法「改正」案が国会に上程されている動きと軌を一にするものだからです。これは単に建物の問題や、研修所の統廃合というような問題にとどまらず、家庭裁判所において、あるべき調査官の役割と位置を低下させるものであると考えるからです。
 
 今、少年法「改正」の動きは、検察官の関与をはじめとして、厳罰化の方向に進んでおり、私たちはこれに強く反対してきました。また、家庭裁判所のなかにおいても、「司法的機能」が強調されるなかで、福祉的・教育的機能が後退し続けてきたことに対しても、批判をしてきました。

 もともと少年法は、「非行少年」も大人社会の被害者であり、福祉的教育的な支援を受けることによって、試行錯誤を繰り返しながら成長をしていくことを目指した法律です。この基本理念を大切にし続けたいと私たちは強く願っています。
 これは、「子どもたちは、大人社会による必要な支援を受けることによって、自己を自由に表現し、成長していく権利を持った存在である」という、今日の子どもの権利条約をはじめとする「子どもの権利」に関する様々な国際規約とも合致するものです。

 そして、少年法の理念の中心的な役割を担うのが、家庭裁判所調査官ではないでしょうか。
 調査官は家庭裁判所において、最も子どもの近くにいる人であり、子どもと共に、その「立ち直りと再生」の道行きを歩く人々だと私たちは理解しています。
 少年が育つ過程、例えばそれは家庭であり、学校であり、地域社会であったりしますが、それらの中で受けてきた心の傷、あるいは怒り、悲しみ、疎外感、絶望、あるいは希望といった少年の気持ちを、表面に現れる言葉のむこうまでも見据えてしっかりと聞き、共感を持ちながら少年が立ち直るための勇気を引き出し、「非行」という事態を乗り越えて生き直していくためのパートナー、それが調査官ではないでしょうか。
 一方で、その少年の家族や学校、グループや地域社会などと関わり、調整をしながら、時にはそのあり方の改革をも促し、少年と社会を再び結びつけていくという重大な役割を担います。
 そういう調査官であればこそ、少年が心を開き、自分なりに問題と向き合い、自ら生き直すことを求めていく可能性が生まれるのです。少年の一生をも左右しかねない少年審判の場において、調査官は非常に重要なキーパーソンだということが、もっと社会に認知されるべきです。

 今日、子どもたちは、その苦悩を様々な行動をもって表現し、社会に訴えかけています。非行や犯罪もそのひとつであると私たちは考えます。
 今、大人社会に求められていることは、彼らを高いところから、あるいは遠いところから批判したり、断罪したり、恐がったり、旧態然とした道徳やルールで縛ろうとすることではありません。
 子どもたちの行動の内側にある苦しみや願いに共感し、ともに惑い、ともに歩きながら、子どもたちを追いつめている大人社会自体のあり方を変えながら生きる環境を整えていく、そういうことこそが真に求められているのではないでしょうか。
 調査官とは、まさにそのような仕事をする人々であるべきでしょう。

 今、最高裁は、少年法の原点に立ち返り、その中心的な役割を担う調査官の地位と独立性を再確認し、尊重するべきです。
 そのためにも、必要な専門性を確保するための研修体制に独立性を持たせ、研修の内容も、よりその役割の本質に沿ったものへと充実するべきです。
 家庭裁判所調査官研修所の廃止は、子どもの権利条約に逆行することで、許されません。
 従って、建物がどうであれ、家庭裁判所調査官研修所は独立した存在としてあるべきである、決して廃止されるべきではないということを、ここに訴えたいと思います。
      

検察官関与に反対し少年法を考える市民の会
(代表 浅川道雄 味岡尚子 内田良子 新倉修 能重真作)
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